おはよう!あずささん

作:名無し

「というわけで……本当に気をつけてくださいね。 
一応警備システムもありますけど、何があるか分かりませんから……」 
「もう~……大丈夫ですよ、プロデューサーさん。わたしだって大人なんですから、 
一晩事務所に泊まるくらいなんでもありませんよ」 

一応確認しておくが、俺だってあずささんを信用していないわけじゃない。 
ただ、何だろう……この不安感。確かにあずささんは立派に一人暮らししているわけだし、 
必要以上に疑うのは失礼だと言う事は分かっている。 
しかし、しかし……『あずささんだから』という一言がすべての理屈を吹き飛ばし、俺を不安にさせる。 

今は深夜の0時半。 
深夜ラジオのゲスト収録を終えた俺達は事務所に帰って来た。 
そのままあずささんを家まで送っていこうと思った矢先、TV局のプロデューサーから仕事のオファーと 
緊急打ち合わせの要請が来たんだ。 
これからあずささんを本格的に売り出していきたいと思った時に、絶好の仕事。無論このチャンスを逃す手は無い。 
あずささんには申し訳ないが、タクシー代も満足に出せない貧乏プロダクションとしては、 
終電が行ってしまった以上事務所で寝てもらうしかない。 
幸いあずささんは大人だし、事務所に泊まっても何ら問題は無い。 



「ちなみに……あずささん。枕やベッドが変わると眠れないとかは……?」 
「うーん……ありませんねぇ〜わたし、眠くなると何処でも寝てしまいますし…… 
事務所の仮眠室って、まだ使ったことが無いからドキドキしちゃいますよね〜♪」 
「それなら良かったんですが……あまりいい布団もありませんし、風邪をひかないように気をつけてくださいね。 
お腹がすいたら給湯室の冷蔵庫にサンドイッチとかありますから、良かったらどうぞ。 
あとは、オフィスは赤外線センサーがありますから、7時まで入れませんから」 
「え〜と……シャワー室は使っても大丈夫ですか?」 
「どうぞ。オフィスと社長室以外は自由に出入りできますから。記者が張り込んでいる可能性もありますし、 
コンビニに買い物とかは出来るだけ勘弁してください……じゃ、俺はそろそろ行ってきますから」 
「あ、はーい♪では、玄関先まで送りますよ〜」 
「あずささん!」 

その笑顔に俺はドキッとしながらも、必死に彼女を止めた。 
気持ちは凄く嬉しいが、悪徳記者がいるかもしれないんだ。 
万に一つでもヘンな方向に取られそうなものは見せられない。 

「……悪徳記者がいるかもしれないんです。特にあずささんみたいに美人な人は狙われやすいですから、 
気持ちだけいただきますよ。……じゃ、運がよければ仕事取ってこれますから、果報を寝て待ってて下さい」 
「ん〜……残念ですけど、わかりました〜。いってらっしゃい、プロデューサーさん」 

彼女の笑顔に見送られ、俺は事務所をあとにした。ここからTV局まで、車で30分ほど。 
上手く行ったら朝の7時ごろには帰れるだろう。 
あずささんも疲れているだろうし、このあとすぐ寝るだろうから問題は無い……はずなんだけど、 
どこかに小骨が引っ掛かったような不安を胸に抱いたまま、俺は急な仕事へと出掛けていった。 



■ 

当たり前といえば当たり前だが、765プロの仮眠室は殺風景極まりない部屋だった。 
ほとんどプロデューサー本人しか使わず、私物もきわめて少ない……いや、無い。 
『寝る』という目的のためだけに作られたその部屋はあまりにも簡素で、見渡しても3分で飽きてしまう。 
天井の木目をいろんなものに見立てて暇を潰せるあずさ本人でさえも、 
この部屋の生活感の欠片も無い雰囲気に呑まれ、寝る以外の選択肢を奪われていた。 

「うーん……寂しいお部屋ですね……寝る場所だから当たり前なんですけど」 
ベッドに潜り込んで電気を消せば、もう部屋に入る光はほとんど無い。 
他に何をするでもなく、もともと寝つきの良い彼女が眠りに落ちるまでは、数分と掛からなかった。 


それからきっかり6時間後。 
雀の囀りとともに目を覚ましたあずさは、ふらつきながらもベッドから離れ、立ち上がった。 
「うにゅぅ……おあようございます〜」 
まだ寝ぼけまなこをこすりながら起き上がるその様子は、『別の寝床にいた』という事実を把握していない。 
その証拠に、ベッドの横に用意していたスカートもはかず、自宅にいる時と同じようにシャワーを浴びるべく、 
そのまま部屋を出ていったのだから。 


■ 

「ふあぁ……疲れたけど仕事も取れたし、良かった良かった……帰ったら、あずささんに報告だな」 
疲れた身体に鞭打って、プロデューサーは765プロへの帰路を急ぐ。 
TV局のプロデューサーとも話が進み、無事あずさの出演依頼を取り付けた。 
しかも、マイナーランクながら番組内で歌わせてもらえるとあれば、会社的には大成功である。 
ランクの低い初期のうちは、バラエティ番組内で後ろのほうで微笑む水着のお姉さんのような仕事しか来ない昨今、 
歌付きで出演依頼を取り付けたというのは異例であり、彼の手腕が確かなものである証拠だった。 
勿論、あずさだけでなく社長も大喜びするであろうことは間違いない。 
彼女の笑顔を思えば、疲れも眠気も今は感じない。 
まだ寝ているか、もう起きているかは分からないが、出会ったら真っ先に報告したい…… 
そう思いながら、彼は会社の駐車場に車を停め、書類をまとめてオフィスへの道を急いだ。 


朝7時の765プロにはさすがに誰もいない。 
だいたい一番乗りは8時20分頃に事務員の小鳥が来るか、月末が近くなると律子が事務の手伝いとして 
8時ごろから来ているか……または徹夜したプロデューサーがそのままオフィスにいるか。そんな感じである。 
しかし、この日ばかりは状況が違っていた。 
午前7時現在……下着に大き目のシャツ一枚という刺激的な格好のあずさが、 
寝ぼけまなこで廊下を歩いていたのだから。 

「ふぁ……シャワー………浴びたい……」 
ほとんど脊髄反射のように歩き、自宅にいるような感覚で風呂場へと向かうあずさだが、 
今現在彼女は765プロにいる。当然間取りも違うし景色も違う。 
壁にでもぶつかればショックで目が覚めるというものだが……偶然は重なるもので、 
何処にもぶつかる事無く、隣の部屋(給湯室)へと入っていった。 
無論、そこが風呂場だと思い込んで。 


■ 

「……オフィスにはいないな……まだ寝てるのかな?仕方ない。起きるまで待つとして…… 
喉が渇いたし、茶でも淹れるかな」 
半分くらい期待していたが、プロデューサーは警備システムのスイッチがONになっているのを確認する。 
つまり、まだあずさはオフィスに入っていないということで、寝ている可能性が高い。 
とりあえずは一杯、茶でも淹れて落ち着こうと思い、彼は給湯室へと向かった。 

■ 

「〜〜♪」 
鼻歌とともにシャツのボタンを外し、朝日の前にその胸を晒す。 
まばゆいばかりの光を受け止めるその肌は、10代中盤と言っても良いほど瑞々しく、 
それでいて充分に成長しきった乳房は息を飲むほどに美しい。 
「お風呂で〜〜うふふふ〜♪」 
どこかで聞いたような文脈と共に、唯一残されたショーツに手を掛けたその時…… 
彼は入ってきた。最悪……いや、最高のタイミングで。 


■ 

人間、あまりに日常からかけ離れた光景を見ると、思考がストップするらしい。 
さっきまでアレだけ会いたかったあずささんが目の前にいるというのに、嬉しいという感情が起こらない。 
いや、むしろ俺の中で危険信号がけたたましく鳴っているんだが、気のせいだろうか? 

だって……考えてもみてくれ。給湯室に入ったら、半裸のあずささんがいるんだぞ!? 
しかも、どういうわけか最後の一枚を脱ごうとしている最中だ。 
かといって悲鳴を上げる様子もなく、俺が何者かを把握しているかもあやしい雰囲気だ。 
確かに俺も疲れて判断が甘くなっている部分は認める。 
だが、ここは紛れもなく給湯室。目の前にあるサイドボードから取り出した湯飲みが証拠だ。 
その給湯室で、何故あずささんが裸になろうとしているのか? 
……多分寝ぼけている可能性が高いが、真偽の程はここでは重要ではないような気がするんだ。 

ここで大切な事は一つ。 
俺がいかにあずささんを刺激せず、この場を丸く収める方法を取れるか否か、だ。 


1:これ以上見てはいけない。残念だが『す、すみませんっ!』と、直ちにこの場から立ち去る。 

2:俺にやましい事は無いし、もうちょっと見たい。『おはようございます』と爽やかに挨拶し、 
  『あずささんも一杯いかがです?目が覚めますよ』と何事もなかったようにお茶を勧める。 

3:常識的に正しい行動を取るべきだ。『あずささん……寝ぼけてます? 
  ここは765プロの給湯室です。まずは服を着てください』と冷静に指摘する。 





「良かったら、あずささんもお茶、いかがですか?気分がスッキリしますよ」 
俺はつとめて冷静に(内心ドキドキしまくりだが)あずささんに話しかけた。 
やはりこの状況を理解している気配はなく、薄目を開けたぽやんとした表情で頷き、湯飲みを受け取った。 

「いただきます〜」 
765プロにあるお茶は全て雪歩が選んでくれたもので、その美味しさはかなりのものだ。 
お茶なんてほとんど飲まない亜美、真美も嫌がらずに口にするという事実がそれを証明している。 
たっぷりのカテキンが効いたのか、お茶をすすってまったりとした表情をうかべるあずささんの様子に、 
気のせいか少しばかり聡明さが戻ったような気がする。……………半裸だけど。 

「あら……プロデューサーさん。おはようございます〜」 
俺を正式に認識したらしく、にこやかな笑顔で挨拶をくれるあずささん。 
その清々しい笑顔は全ての男をやる気にさせ、仕事をする活力へと変換される……はずなのだが、 
下着一枚でこんな無防備な笑顔を向けられては、どうしていいか分からない。 
多分、俺を認識しても周りの状況は分かって無いんだろうな……あずささん。 

傍から見ればお笑いのようでしかないこの状況だが、間近で裸体を拝んでいる本人としては、 
幸せと戸惑いが最大レベルで押し寄せているこの状況をどう説明して良いものか。 
あずささんの最大のアピールポイントである大きな胸は、その大きさ以上に形も良く、 
上辺のカーブには見事な張りがあって、ただでさえ見事なそのボリュームを最大限に活かしている。 
ファンの誰もが見たがるであろう、その胸の先端には綺麗なピンク色をした乳首があり、 
乳輪と乳首の大きさ、ふくらみまでが完璧ともいえるプロポーションで俺の目前に存在している。 
稀にネットなどで『ああいう巨乳女に限って、乳輪でかかったり乳首が黒かったりするんだぜ』などという 
不貞な輩がいるが、それは全くの事実無根であり、あずささんの綺麗なおっぱいを見た事が無い 
可哀想な男のやっかみである事が今、証明された。 
………勿論、奴らの前で立証する気なんて無いけどな。 


そして、胸ばかりに目が行ってしまうが……実は、腰もお尻もあずささんは凄い。 
太りやすい体質だとミーティングの時に聞いたことがあるが、そのくびれたウェストは大変魅力的で、 
胸とお尻のふくらみを見事なまでに強調させている。 
さらにはショーツに包まれたお尻のラインも芸術的と言っていいほどに美しくも艶かしく、 
強烈なまでの母性を感じずにはいられない。 
形は普通のヒップハングタイプだが、上品なレースのあしらわれた純白のショーツも良く似合い、 
その、残された一枚が余計に彼女の裸体を扇情的に見せていた。 

いろいろリスクも高いこの状況だが、ただ一言……『生きてて良かった』と心から思えた。 
だが、神はこの状況に甘んじる事を許さなかったらしい。 
さっきまでの行動と、今現在の俺との会話を別々の脳で処理しているのか、 
茶を美味しそうに飲んだ後、湯飲みを戻すとふたたびショーツを脱ぎ始めた。俺の目の前で。 

「!!?」 
ここで大袈裟に驚いてしまっては、あずささんを刺激してしまう。 
俺は息を飲み込んで何も感じていない様子を装うと、自分の茶を啜りながら彼女の行動を見守った。 

丁寧に片方ずつの脚をショーツから抜き取るしぐさは、全ての男の脳天を直撃する。 
スーツを着てるから誤魔化せているが、俺の股間はすでに大変な事になっていた。 
バスケットと脱衣篭を間違えているらしく、シャツと下着をその中に入れると、奥の扉へ入っていく。 
彼女は風呂場だと思っているようだが、その扉の向こうにあるのはただの物置き部屋だ。 

今のうちに逃げて、知らんふりをするという手もあるが……欲望と心配の感情がそれを許さなかった。 
案の定、あずささんはここが風呂ではないと認識して戻ってきたようだが…… 
俺の見立てだと、多分まだ半分くらい寝ているみたいだな。 

「忘れてました〜とらたんにご飯、あげないと〜……」 
そして、彼女の脳……いや、脊髄は別の日課を思い出したようで、飼い犬にご飯をあげるべく、 
俺の横を通り抜けて給湯室を出て行った。………今度は、全裸で。 
詳しく言うならスリッパは履いていたが、全裸と言ってもいいと思う。 


「……くはぁ……」 
前から後ろから、あずささんの裸体を一通り拝んだところで、彼女が去った後、俺は固い床に倒れこんだ。 
とりあえず当面の危機を脱した安心感と、とんでもなく凄いものを見た感動で。 
「……歩くだけでも、揺れるんだな……さすがはあずささんだ」 
僅かな時間だが、きっと俺は一生忘れないだろう……いや、忘れてなるものか! 
下手をすれば思いっきり嫌われるリスクを背負ってまで見た、あずささんの裸体だ。 
少しばかりあずささんの隙に乗じたような、卑怯な側面も認めるが……まぁ、それはそれ。 
見なかったほうが後悔するに決まっている。あの破壊力を目の当たりにしたら。 

それにしても件の犬め。あずささんが『時々一緒にお風呂に入って洗ってあげるんです〜』なんて言っていたが、 
犬の分際でなんて羨ましい。あんな人に毎日ご飯の世話や散歩と、ふれあっていられるなんて。 
まぁ、ここは765プロだ。あずささんが玄関まで出て行っても、とらたんはここにいない……… 



「……待て、待てよ……落ち着いて考えろ、俺……」 
脳裏に浮かんだのは、果てしなく嫌な予感。もう一度状況を整理してみよう。 


・あずささんは、ここを自宅と間違えている 
・あずささんは、とらたんにご飯をあげるべく、玄関まで歩いていった 
・あずささんは、今、全裸である 

「やばい!?今、外に出られたら」 
悪徳記者はおろか、一般人にも見られたらおしまいだ。 
いくら寝ぼけているとはいえ、全裸で外に出られたら言い訳はまったく通用しない。 
俺はダッシュで給湯室を出ると、全力で玄関に向かって加速し始めた。 
もう、体裁やら状況やらを気にしてはいられない。 
あずささんが全裸でドアを開けてしまえば、彼女のアイドル生命が……いや、765プロが終わる。 

廊下に出た時点で、あずささんの綺麗な黒髪と美しいお尻のラインが見えるが…… 
今はそんな事を気にしていられる状況では無い。無いのだが…… 
男という生き物は悲しいもので、胸と同じようにやわらかく揺れる彼女のお尻にどうしても視線を奪われる。 
ミーティングでは『くっ…許せないな!』と言ったが、あずささんに痴漢したくなる男の気持ちも、悲しいが解る。 
あの胸とお尻は、健全な男にとって、多少の理性など容易く吹き飛ばす核兵器なのだから。 


「あずささん、ストップ、ストーップ!!」 
叫ぶと同時に、俺は後ろから彼女を抱きとめた。 
ドアノブに手を掛けている段階だったので、もはやこうして身体を張って止めるしかなかったのだ。 
タイミング的には何とか間に合ったようで、彼女の歩みも止まったようだ。 
……しかし、今回はさすがに与えたショックが大きかったのかもしれない。 

「あれ……とらたん?じゃなくって、プロデューサーさん……あら〜?ここは……」 
…………さて、まずは何から説明したものか。 
はっきり目を覚ましたあずささんの事だ。もう自分が全裸である事にもそろそろ気付くだろう。 
とりあえずは寝ぼけていた事だけでも思い出してくれると助かるんだけど…… 
なんて思っていた矢先、鍵が開いて誰かが入ってきた。 

「……」 
「……」 
「……げ」 

全身を黒のスーツで決めた、初老の男性。 
それは紛れもなく、この会社の最高責任者……すなわち、高木順一朗社長その人である。 
よりによって今日は小鳥さんや律子より早く出社するとは、何と言う間の悪さ。 
社長は一瞬面食らった様子で、たじろぎながらも冷静にドアを閉め、俺に向かって静かに言い放った。 

「……キミには聞きたい事が2つある。まず、ここで三浦君と何をしている? 
もう一つはその事について申し開きがあるなら簡潔に説明したまえ」 

……やっぱり、そう来るよなぁ…いきなりこんな場面に出くわした人間なら。 
だが、落ち着け俺。状況は最悪で、ただでは済みそうに事は分かっている。 
しかし、即死か重症かではその後の対応が大きく変わる。 
考えろ、俺!少しでもダメージを抑える、適切なセリフを!! 

「……あんっ……」 
あずささん!咄嗟に胸を掴んでしまった事は後で謝りますけど、よりによって今、 
この状況でそんな声を出しますか!? 
とにかく今回ばかりは、『違うんです、実はこれは……』とか、説明している時間は無さそうだ。 
このピリピリした空気に耐え切れず、俺が発した一言は…… 


1:『朝の挨拶をしていました』 

2:『レッスンをしていました』 

3:『コミュニケーションをしていました』 




「コミュニケーションを……」 
そこまで言った時点で、この場の気温が3度ほど下がったような気がした。 
半分ふざけて、『社長も一緒にいかがです?』なんて言ってみることも考えたが…… 
ダメだ。明らかにやばい。いつも黒い社長が真っ赤に変色してるような気配を感じる。 

どうやら最悪の選択を引いてしまったらしく、1時間後には俺の肩書きが、 
【プロデューサー】から【無職】になっているであろう姿が見えたその時、 
意外にも目の前のあずささんが口を開いた。 
「あの……違うんです、社長さん……プロデューサーさんは何も悪くないんです…… 
寝ぼけて、お風呂と外を間違えていたわたしを止めてくれたんです〜」 

……あれ?あずささん……意識が完全に戻った?でも、今までの状況を覚えているってのは一体…… 
だが、俺の下手な言い訳よりもあずささんの一言の方が鎮火に充分な効果を上げたようだ。 
「実は〜わたし、朝が苦手でなかなか目が覚めないんですよね……ですから、今朝もうっかり 
ここをおうちと間違えて寝ぼけたままシャワーを浴びようとして……」 
「……外に出ようとしたところを、そこの彼に慌てて止められた……と言うわけかね?」 
「そうなんです〜ですから、プロデューサーさんはわたしを助けてくれたんですよ〜」 

あれ?あれ……急速に破滅の波が引いていくぞ。 
あずささんの言ってる事は正しいし、事実だ。むしろこれが当たり前なんだが…… 
何だろう?あずささんに後光が差して、女神様のように見えるんだが、やはり気のせいだろうか? 

「ふむ……状況はだいたい分かった。まぁ……良く考えてみれば、 
彼に朝からそんな事をする度胸があるとも思えんし、な……」 
「そうですよ〜♪」 
あずささん……男としてそこに即、同意されるとちょっと傷つくんですけど。 
「では、誤解も解けましたし〜、今日の流行情報を〜」 

『あー……ゴホン、いや、その、だな……とりあえずその前に服を着たまえ』 

至極もっともな社長のツッコミによってこの場は解散、あずささんは服を着るために給湯室へと戻り、 
【余計な騒ぎを起こす前に対策を立てておきたまえ】という軽い注意を受けておひらきとなった。 
クビは繋がって一安心な俺だが……最後に大事な仕事が残っている。 
そう、あずささんへのケアとお礼が。 

今日、あずささんはオフなので、これから車を出して彼女を送っていくことになる。 
どう話していいものか迷うが、車の中という密室で、邪魔の入る事無く話が出来るというのはかえってありがたい。 
準備の出来たあずささんを車に乗せ、会社の車は彼女の住む家へと走り出した。 

「プロデューサーさん……昨日から寝てないのに、大丈夫ですか……?」 
「ええ、仕事も取れてテンション上がってますから平気です。 
大切なアイドルを乗せた状態で事故なんて起こしたら、ゴシップものですからね……大丈夫ですよ」 
本当は、朝の生きるか死ぬかの状況を脱した緊張感と、 
あずささんのまばゆいばかりの裸体を見てしまったせいで目がギンギンにさえているからだが。 

「あの……ところでわたし、朝にどんな事しちゃってましたか?」 
「え……覚えて無いんですか?だって、社長の前ではしっかり説明して……」 
「あれは、その……昔の経験から来る、推測なんです……実はちょっと前、 
友美と卒業旅行で温泉に行ったんですけど、半分寝ぼけていて〜」 
「風呂でも無い場所で浴衣を脱いで、騒ぎになったとか?」 
「すごーい……プロデューサーさん、どうして分かるんですか?まさか、超能力者……」 

いや、分かりますから。今日の状況を見れば誰でも。 
その後、ものすごく疲れた顔をしている知美さんの顔までリアルに想像できますから。 

「それから、友美に『お泊りする時は特に気をつけなさい!』と言われまして〜 
気にはしていたんですけど……まだ、やってしまったみたいで……」 
「……でしょうね。一歩間違えば大事件になりますよそれは」 
俺は、担当プロデューサーとして、あずささんに寝起きドッキリだけは仕掛けてはいけないと 
心から思った。下手をすればゴシップだけではなく訴訟問題に発展しかねない。 
大人しくて身持ちも硬いあずささんだが、必要以上に回りに色気を振りまいてしまうその属性は非常に厄介だ。 
ただ、個人的見解を述べるなら……ここまで強大なビジュアル的破壊力を持ちながら、 
安っぽいイメージが全く無いのは、彼女の人格が成せる業なんだろうなぁ。 

「本当にすみません〜……お見苦しいものをお見せしてしまいまして…… 
その……あまりにはしたなくて、呆れてしまいましたでしょうか……? 
社長さんも、怒ってらしたみたいですし〜」 



俺は、裸を見られて怒るどころか落ち込むあずささんに相変わらずの天然っぷりを確認した。 
とりあえず車を路肩に止め、話に集中するべく彼女の方を見る。 

耳まで真っ赤になりながら口元を手で隠し、恥じらいと戸惑いの表情を浮かべるあずささんは、 
オトナの女性というより、恋を覚えたての少女の如く可愛らしい。 
それなのに、手を口元に当てることによって脇は窮屈なまでに身体に密着し、 
ボリューム満点の胸が腕の筋肉で押し潰され、少女というレベルにそぐわない色気までもが同時に感じられる。 

そうだ。彼女が必死になって見つけ出そうとしている【運命の人】より先に、 
俺は彼女の大事な裸体を見てしまったのだ。 
不可抗力、というのはあずささんも分かっているし、責められるという空気は無いにしても…… 
彼女は他人を責めるどころか、俺や社長に迷惑を掛けたと思って落ち込んでしまう。そういう人なんだ。 

彼女のランクはまだまだ低く、運命の人が見つかるまでは多分もっと時間と実績が必要だと思う。 
だからこそ、俺はもっと頑張って彼女を輝かせたい。 
あずささんが寝ぼけても受け止めてくれるような、運命の人を見つけるために。 
そして、あずささんが幸せになるために。 

「あずささん。迷惑なんてわけ無いじゃないですか……それに、社長も怒ってないですよ。 
年甲斐もなくあずささんの裸に焦ってぶっきらぼうな反応になっただけですってば。 
俺だって、驚きはしたけど呆れてなんていませんし、全然あずささんは見苦しく無いです! 
そうでなきゃアイドルランクEにも関わらず写真集があれだけ売れたりしません」 

あずささんは天然ではあるけど、まず先に相手を気遣えるやさしい人だ。 
こう言ってくれてはいるが、他人に身体を見られて平気でいられるワケが無い……と思う。 
だから、あずささんをなだめると同時にもうひとつ、俺が言わなければならない事がある。 

「それと……すみませんでした。急いでいたとはいえ、胸に触れてしまって。 
大事なアイドルに……いえ、結婚前の女性に触れるなど、プロデューサーを降ろされても 
文句の言えない話ですが、どうか許してください! 
俺、あずささんの運命の人を見つけるためにもっと頑張りたいんですっ!!」 

彼女に正面から向き直り頭を下げると、先程の邪心がどうしようもなく恥ずかしく思えてくる。 
あずささんの裸は正直、見たい。下世話な言い方をすればどんなに金を払ってもどんなに苦労をしても。 
だが、こんなに真っ直ぐな人(すごく天然だけど)の裸を見ていいのは、やはり運命の人だけなんだろう。 

さらに下世話な話になるが、彼女の一番大事な部分は下の毛に隠れて見えなかったが、それで良かったと思う。 
もしも本気で彼女の全てを見たかったなら、正面から、彼女の同意を得た上で見るべきなんだろう。 
……確率的にはすごく薄いけど、これから頑張って有名になって……万が一、運命の人が見つからなかった時、 
俺は彼女の担当Pから外れると同時に、彼女にこの気持ちを伝えたいと思う。 
まぁ……無理だろうけどね。彼女の美貌と身体つき、なによりその全てを癒すあたたかい雰囲気に 
魅力を感じない男なんて、おそらくいないだろうし。 
今流行のIT社長とか、イケメン芸能人とか、プロデュース活動が大成功すれば、運命の人とて 
よりどりみどりになるだろう。 


だから、本当にこれからのことは分からない。 
分かっているのはあずささんの魅力と潜在能力は疑うべくも無い事と、 
俺が全力で彼女をプロデュースしたいと思っていること。 

「……プロデューサーさん、頭を上げてください〜わたしも。怒ってませんし嫌でもありませんから」 
「……許してくれるんですか!?」 
「許すもなにも……プロデューサーさんなら、触られても全然イヤじゃ……っ!?す、すみませんっ…… 
わたしったら何をいきなり……えっと、今のは忘れてください」 
「は、はい!」 

条件反射で返事をしてしまったが、多分忘れられないだろうなぁ、あの反応は。 
「それより、今日は本当に止めてくださってありがとうございました……さすがにアイドルがハダカで 
外に出ては、まずいですよね……それを止めてくれたんですから、お礼を言うのはこっちです〜」 

車の中で向かい合って双方が頭を下げている絵というのは、なんとも間抜けなものだ。 
が、頭を下げながらも俺の気持ちは安らかなものだった。 
クビが繋がっただけでも充分にありがたいが、やはり一番ありがたいのは、 
俺はまだ彼女をプロデュースして良いのだと思ったことであり、まだしばらくは彼女と一緒に仕事ができると言う事。 
今朝の騒ぎの半分は自業自得なのだが……やはり、あずささんはいるだけで周囲の人を和ませる、 
癒しオーラの持ち主なのだということが良く分かった。 
……もっとも、あんなピンチは2度と味わいたくないけど。 

「……では〜そろそろ戻りましょうか?とらたんもおなかを空かせて待っていますし」 
「そうですね……じゃ、行きますよ。ごはんをあげたら、あずささんもゆっくり寝てください。 
何せ、次の仕事は歌つきの出演ですから、体調的にもベストに仕上げてもらいますよ」 
「は〜い♪」 

いつもの風景、いつもの日常。 
765プロの面々は、今日もそれぞれ学校へ仕事へ。 
俺の仕事はプロデューサー。少しでも多く社のアイドル達を売り、CDやグッズで利益をもたらし、 
できることなら芸能界を動かすほどの人気アイドルを世に送り出すこと。 
……なんて言うとご大層な話だが、その根幹は案外、単純な事のような気がした。 

彼女達が幸せになるために、自分に出来る事すべてを駆使して生きる。 
今、俺の隣で微笑むあずささんを見るだけで何処までもやる気が沸いてくるようだ。 

あずささんの住むマンションまであと10分ほど。 
彼女をトップアイドルの地位まで連れて行きたいと思うと同時に、 
彼女の本当の幸せって、どういう事だろうな……と考えながら、俺はアクセルを踏みしめるのだった。 


〜ノーマルコミュニケーション〜 

■おまけ 


「収録お疲れ様です、あずささん。今回もいい声でしたよ」 
「ありがとうございます〜♪少しは自信もついた様で、無事歌いきることができました〜」 
「それにしても、今日はきつめのスケジュールでしたからね……身体とか、大丈夫ですか?」 
「ん〜……」 

あれから1年弱、努力の甲斐もあってあずささんは名実共にメジャーアイドルとして活躍している。 
……にもかかわらず、浮いた噂も無く忙しい日々を過ごしている。 
社長には悪いが、もともとあずささんは運命の人を探すためにこの仕事をしているのだから、 
少し休みをあげて、本来の目的のために時間を使ってもらうというのもアリかもしれない。 

しかし、あずささんはその提案を断った。 
「こういうのは〜無理して探すものでもありませんし……」というのがその理由だが、 
無理をしてでも見つけ出したくて……というか、相手にみつけてもらう為にアイドル活動をしていると 
初期の頃、ミーティングで聞いた気がするんだが……? 
まぁ、本人が言うのだから無理にとは言わないが。 

「そうですね〜ちょっと疲れているのか、全身が痛くて……特に肩の辺りが」 
「あー……確かに」 
何が『確かに』かは言わない。というか、彼女の前で言えるかこんな事。 
「プロデューサーさん、ちょっとマッサージとか、してもらってもいいですか〜」 
「ええ、構いませんが……せっかくだから、プロの人を手配して本格的にやった方が」 

「……」 
う……もう随分長い事一緒にいるから分かる、あずささんの不機嫌な視線。 
俺、何かまずい事でも言っただろうか? 

確かに時間も金も掛かるが、今のあずささんのランクと会社の規模なら、 
プロのマッサージ師を呼ぶくらい大したことではない。 
あずささんの疲れが効果的に取れるのなら、俺なんかよりもプロに頼む方がいいと 
思って言ったんだけど……彼女はその提案がお気に召さなかったらしい。 
頻度こそ少ないが、こういう時のあずささんに逆らってはいけない。 
下手な事をしたら、本気でテンション急降下するからなぁ…… 
他のアイドル達と違って、テンションの上下が安定しているのがあずささんの持ち味なのに。 

「わたしは今、プロデューサーさんにマッサージをして欲しいんですっ!」 
珍しくはっきりと主張するあずささんを前に、俺が否定など出来るわけも無く。 
まぁ、楽屋の中なら鍵を掛けておけば悪徳記者もADも入って来ないだろうし、 
これであずささんの機嫌が良くなるなら安いものだと思い、俺は上着を脱いで腕をまくる。 

「………」 
「………」 
「あの……あずささん、マッサージさせていただきますんで、後ろを向いて……」 
「………」 

聞こえているのかいないのか。 
でも、おもいっきり胸を張っているこの姿勢……どういうつもりですかあずささん!? 
罠なのか?これは罠なのか!? 
一応、マッサージと言う事で彼女の了解は取っている。 
しかし、こう言う事は昔のアノ事件の時に誓ったように、担当を外れてからと決めていたんだ! 

「プロデューサーさぁん……早く……お願いします〜」 
……ああもう!!あなたは天然であるがゆえに恐ろしい。 
触るべきなのか?遠まわしに求めているのか!? 
しかも目を瞑りながらちょっと上を向いて、頬を赤らめているその姿勢は、 
マッサージ以外の何かを求めているように見えるんですけど!? 


【画面をタッチしてください】 


……どうする俺? 
ここはいっちょ逝っとくか俺? 
もういちどクビを賭けて逝っとくべきなのか、俺!! 



※続きません、終わりです。 




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