アイコノクラズムU

作:名無し

 控え室。 
 歌番組の収録を終えた如月千早は、早々に私服に着替えると、椅子に深く背中を預け、天井 
の蛍光灯を眺めていた。足元には、無造作に転がったゴシックプリンセスの衣装。好んで着て 
いるわけでもないものに、愛着なんて湧くはずもない。皺も何も関係なく、脱ぎ捨てるように 
してそのままだった。 
 千早は数分前のことを反芻する。 

 カメラを、マイクを前にして歌う自分。 

 歌は万全だったろうか。 

 深夜枠のランキング番組で流れる、ライブの収録だった。 
 ソロリリースの新曲が、トップ100の枠外からじわじわと伸びてきて、歌番組に名が出る 
ようになってきたのは最近。ブレイクの予兆は間違いなく感じさせる動きだが、千早を知るも 
のは、おそらく誰もそれを不思議と思わないだろう。 
 皆、歌について彼女がどれほどの労力を払い、歌についてどれほどストイックな態度でいる 
かを知っているのだから。 

歌姫。 

 誰が言い出したのか、千早をそんな風に呼ぶ人間もいる。 

 否定したかった。そんな大層なものじゃない。 
 私にとって歌は……歌は…… 

トントン。 
 控えめなノックの音。 
「……誰?」 
「千早ちゃん、おつかれさま。中、入っていい?」 
 天海春香の声だった。 
「……ごめん、今、一人でいたいの」 
 ドアの向こうから沈黙。しばらくして、 
「うん、わかった。じゃあ、また今度ね」 
 にべもなく拒絶されたことに対する動揺を振り払うために、ことさらに明るい声が返ってくる。 
 かすかに聞こえる足音が遠ざかっていって、 
(最低だな、私) 
 自己嫌悪で千早は目を伏せた。 
 性格ゆえに孤立しがちな千早が765プロで何とかやっていけている影には、間違いなく春 
香のフォローがあった。言葉が足りずに誤解を招くところを付け足してくれたり、千早がなか 
なか表に出せない愛想を、千早の分まで振りまいてくれたり。もちろん、千早自身、直接春香 
に救われるところも少なくなかった。何を思ってこんな付き合いにくい人間に寄り添ってくれ 
るかはわからないが、他愛ない会話や遊びで、どれだけ安らぐことか。 
 そんな得難い友達に対して冷たい態度しか取れない自分が、憎らしくなる。 
(でも……こればかりは、どうしようもないじゃない) 
 鏡台の前に携帯電話。ストラップもろくについていないシンプルなそれを持ち上げる。そし 
て、祈るような気持ちで、千早はその画面に目を落とした。 

 新着メールは一件。 
 内容は、中を見なくてもわかっていた。 


 千早はその男のことを詳しく知らない。知ろうとも思わなかった。 
 名前も素性も知らないが、職業だけはわかっていた。この業界(芸能界)の、およそ底辺に 
住むような存在、下世話なスキャンダルや露悪的な噂を、ことさらにセンセーショナルに書き 
たてるのが仕事の下種。 
 ぼさぼさの髪の毛。猫背で、いやらしい笑顔が張り付いている。 
 千早にとって、一時として同じ部屋にいるのが耐え難い種の人間なのだが…… 
 おそらく男のマンション。夜毎、千早はそこに呼び出される。 
「……っく」 
 まず、部屋に入るなり袖を通すように指示されたのは、こともあろうかゴシックプリンセス 
の衣装だった。先ほど収録に使ったのを知ってか、あるいは偶然かは分からない。とにかく、 
男は、好き勝手な衣装を千早に着せるのが好きだった。 
 どこで調達してくるのか分からない、ブルマや水着やナース服。千早自身が着ているセーラ 
ー服を着せられるときもあった。 
「いやぁ、似合うねぇ」 
 中年の、じっとりとした視線がまとわりついてくる。短いスカートから露出した太ももの辺 
りを重点的に。 

 ことの起こりは、数週間前。 
 この男は、千早の『家庭環境の事』を掴んだといってきた。どこから漏れたのかは分からな 
いが、なぜかこの記者の端くれは、千早を悩ますそのことを詳細に調べていた。 
 千早個人としては、それらが公になったところで、なんら困ることはなかった。まるで他人 
事のように、それらは千早の周りを取り巻きながらも、捕らえられぬ遠くの存在だったから。 
 困るであろう、父親も母親も、顧みるべき存在ではなかった。むしろ、自業自得とすら思っ 
ていた。 

―――けれど、 
 弟が、同情という名前の好奇の目でさらされるのは耐え難いことだった。 

 加えて、事務所の仲間も。 
 765プロはそこそこ名前を知られようとも、いまだ弱小プロダクションだ。 
 所属タレントも少なく、そのほとんどが仕事をしようにもギャラは抑えられ、レッスンや諸 
経費で赤が出るような、いわば初期投資の段階。ようやくそこを抜けて、これから稼いでいこ 
うという千早にスキャンダルで潰れられては、たやすく経営は左前になってしまうだろう。 
 せっかく今ままで、自分にかけてくれた人たちの期待を、信頼を、裏切ることになってしまう。 
 自分の家族の……いや、自分の所為で。 
 そして、夢抱く友人たちの足を引っ張ってしまう。 
 それは、なんとしても避けたいことだった。 

 だから、千早はすべてを引き受けた。 
 日常を、765プロの仲間を守るために。 
 唾棄すべく存在の男の前に伏せて、わが身を引き換えにしようと。 

 それすらも…… 
 そんな、十五の少女の葛藤はすべてひっくるめて、狡猾な男の掌中のものでしかないとは気 
がつくこともなく…… 

「さて」 
 ひとしきり目で楽しんだ男は、千早に向き直って言い放った。 
「いつものとおり、やってもらおうか」 
 だらしなく、ベッドに腰掛けた男は、ベルトを緩めて、下半身を露出した。 
 かしずく千早の眼前に、誇張するように前部がその形に出っ張った、下着が晒される。 
 視姦で興奮したそれは、すでに屹立している。下着をズリ下げると、ぶるりと肉の塊が現れた。 
 ゴシックプリンセスの白い手袋。その指先を、おずおずとそれに伸ばす。素手で触れないで 
よかったのは、千早にとって少しだけありがたかった。 
 骨よりも柔らかく、肉よりも硬くて、そして熱い、少女にとってはいつまでたっても慣れな 
い存在、合わせた手でそれをくるむように握ると、前後にしゅにしゅにと動かした。初めての 
とき、握りが強すぎて、無理やりに髪を引っ張られたこともあった。以降、千早は好まざると、 
男の望む技能を身につけることになる。最初は柔らかく、手のひらの柔らかい部分が触れるか、 
触れないかくらいでいい。硬くなってきてから、徐々に手のひらの握りを強くさせていく。 

 赤黒い亀頭のフチを指の腹が前後するたびに、男がかすかに体を揺り動かして、呻いた。 
 表情なく、淡々と千早は指を動かす。 
 先端から零れた先走りがシルクの手袋に染みて、灰色のシミになる。指先からそれがどんど 
ん大きくなるにつれ、前後する手のひらからは、にちゃにちゃといやらしい水音が立つように 
なってきた。 
「ははっ、さすが歌姫だ。こっちのマイクの握りの上達も早いもんだ」 
 揶揄ったような声が、つむじの上から聞こえてくるが、千早は顔を上げない。 
 ときおりびくびく蠕動するぐらいに膨れたペニスの先端に、唇を持っていき、 

くぷ。 

 エラの張った亀頭をほおばった。 
 口中に塩気を伴った味が広がる。 
「んっ、良いよ・・・・・・そのまま、舌を絡めて・・・・・・」 
 頬を狭め、ゆっくりと頭を前後に振りながら、千早はフェラチオに耽る。 

 そして、男はそんな千早の様子をにやにやと見ながら、その後ろ頭に手を伸ばし、 
「んぶっ!」 
 思いっきり腰の方へとひきつけた。 
 ごぼ、と自力では入れられないところまで、剛直が進入してきて、千早が目を大きく開け広 
げる。 
「ん・・・・・・!!んん!!」 
 嗚咽で喉が詰まり、息が出来ない。口蓋垂よりも奥に突きこまれた肉槍は、下咽頭の壁にぶ 
つかり、ぐりぐりとこすりつけられる。間断なく嘔吐感がせりあがってくるが、せき止められ 
た出入り口のせいで、それを表に出すことすら出来ない。 
 瞬間、それは死ぬより辛い地獄の苦しみである。 
 整った黒髪を振り乱しながら、逃れようと千早の体はもがくが、どんなに必死になっても、 
大人の男の手で、がっちりとつかまれた後頭部は振り払えず、あまつさえ、さらに奥、奥へと。 
「ぐ・・・・んんっ!!んん!!!」 
 端正な千早の顔が苦痛に歪む。零れる声も、一層に切羽詰った必死なものに。 
 数十秒。けれど、千早にとっては悠久とも思える拷問の時間。思うさま口辱を楽しんだ男が、 
ようやくその手を離した。 
「・・・・・・!!んん、けほっ!!」 
 ぼろり、と唾液でてろてろのペニスが吐き出され、同時に泡だった大量の唾液が千早の口か 
ら零れた。 
 喉をたどり、ゴシックプリンセスの胸元に垂れる。 
 両手を喉に当てて、しばらく下を向いて、千早は低い声で咳を繰り返す。 
「あははは、やっぱり歌姫の喉の具合は最高だ!!鍛えられてるからかな?吸い付いてくるみ 
たいで、商売女のとはまるで別物だよっ!」 


 屈辱だった。 
 歌を歌うため、そのための喉なのに。 
 ほんの数時間前はステージで、歌を奏でていた喉が、こんな男の玩具に成り下がっている。 

(くっ・・・・・・) 
 ぎゅ、と千早は見えないところで拳をきつく、握り締めた。爪がきりきりと食い込み、血が 
滲むくらいに。 
 泣きたいくらいの悔しさを、そうやっていくらかでも紛らわせたらいいなと思って。 


 ぐい、とまた頭を掴まれ、無理矢理に顔を上げさせられる。 
 眼前には嫌味なくらいに反り返ったモノ。 
 千早が咥えると、遠慮なく腰を使って突き入れてくる。 
「む・・・・・・んぶ、く・・・・っ!!・・・・・・っ!!」 
 大きなスライドから、ぱちゅぱちゅと突き入れられるたびに、千早の体が飛び跳ねる。快楽 
なんか一欠片もない、一方的な陵辱だった。 
 自己防衛的に湧いてくる大量の唾液が、唇と肉棒の隙間からぼたぼたと垂れる。 

 グラインド、のの字の動き。後背位で突き入れる感覚で、男のペニスが千早の小さな口内を 
暴れる。吐き気、呼吸困難。何度も気を失いそうになるが、そのたびに男は喉奥を突き、意識 
の糸を手放すことを許さない。 
 次第、男の吐息が早くなり、腰の動きも早くなってきた。それらを感じた微かに残った冷静 
な部分が、あと少し耐えれば終わりだと告げていた。 
「いくよ、いくよっ!出すからね、口の中に!!」 
 そして一際、奥へと突き入れた男が獣じみた呻きをあげると、 

―――千早の喉に、口の中に。 

 大量の白濁が。 
 ねばつき、生暖かいそれが、口中を満たしてくる。 
 引き抜かれたペニスの先から、黄みがかったスペルマが零れ、ゴシックプリンセスの黒を斑 
に染めていく。 

「まだ、飲んじゃダメだよ。口に溜めたままにしといてね。それで、最後は、分かるね?」 
 言われるがまま、千早は頬たっぷりに精子汁をためたままで、再び、男のペニスに口をつける。 
 その先端、鈴口に口を窄めて吸い付くと、尿道口に残ったものを、ちゅる、ずずっと音を立 
てて吸い上げた。そして、口を開け、たっぷり溜まった精液を男に見せ付けた。 
「よく出来ました。じゃ、ごっくんしていいよ」 
 液でもゲルでもない、しょっぱい液体が喉を通過していく。微妙な粘度で、残って絡まるた 
め、何度も、何度も喉を鳴らさないと、降りていかない。その途中、湧き上がってくる嫌悪感 
のせいで何度も吐き戻しそうになる。けれど必死に千早は、苦行のように、それを何とか飲み 
干した。 
 そして、証拠を見せるために、もう一度口を開けて、男に見せる。 
 溜まっていたものはあらかた消えていたが、こびりつくようにして残ったものが、舌と上顎 
に糸を引いていた。 
「はい、ご苦労様」 
 男はニコニコと笑いながら、揶揄するように千早の頭を撫でた。 
「・・・・・・今日も千早ちゃんは上手に出来たから、ここまでにしておいてあげるよ。アイドルだ 
から、そっちは大切にしとかないとね。ま、どうせあと何年かしたら、そっちも商売道具にな 
るんだろうけどね」 
 下卑た男の笑い声。 
 怒るでも、笑うでもなく、千早はただ、それを聞いていた。 


************* 

(なにしてるんだろ、私) 
 控え室。曲プロモの撮影を前に、千早は一人、鏡台を前に座っていた。 
 朝はアイドル、みなの憧れ。けれど、夜になったら、奴隷。 
 輝くステージも、技巧を凝らした歌によって巻き上がる賞賛の嵐も、すべてあの男の歪ん 
だ楽しみを引き立てる、小道具でしかないのではないか? 
 努力も、我慢も、結局、全部無駄に思えてきてしまう。 
「・・・・・・歌おう」 
 いつも、最後に千早を支えてくれたのはそれだった。 

―――あの霊柩車を見送ったときも。 

―――食卓から罵り以外の会話が消えたときも。 

―――友達だと思っていたクラスメートが、影で自分をどう言っているか知ってしまったときも。 

 消えてしまいたいような悲しいことがあったときも、千早は歌を歌って乗り越えてきた。 
それを支えに、いや、それだけを支えにすることが出来るから。 
 硝子の歌姫。 
 だから、今回も・・・・・・ 
 千早は奏でる。彼女の一番好きな歌を・・・・・・ 

泣くことなら 容易いけれど 悲しみには 流されない 

 歌詞の内容に自分自身を投影させて。声を張り上げる必要はない、誰かのための歌じゃな 
くて、千早自身のための歌なのだから。 

だけど 傷ついて 血を流したって いつも心のまま ただ・・・・・・ 
ただ・・・・・・ 
ただ・・・・・・ 

「っく」 
 そこから先の、歌詞が出てこない。 
 移入した感情が、先を歌うことを拒んでいる。 
「羽ばたけ・・・・・・ないよね、このままじゃ、私・・・・・・」 
 改善の兆し無い絶望的な現状が、千早を捕らえてしまっていた。 

 苦しい。あんな男の言いなりは嫌だ。どうして?どうして!?私が苦しまなきゃいけないの!? 
 好きでもないのにあんなことをさせられて、毎晩、毎晩。 
 明日も、明後日も、ずっと、ずっとそれが続くなんて・・・・・・ 

「こんなものが、あるから」 
 鏡の向こうの少女が言う。 
「だから、苦しいのね」 
 彼女は、大振りの鋏を手に取った。大道具のスタッフが置き忘れていっただろう、それの切っ先 
を真っ白な喉元に向ける。 
「歌えなくなれば、きっと、もう苦しまなくていいから・・・・・・」 

 すう、とその手が、白銀の刃が近づいてきて・・・・・・ 


「・・・・・・ダメっ!!!」 

 寸前。 
 その刃が大きくはじかれた。まだ虚ろな目のまま、間に飛び込んできたものに千早が視線を向 
ける。 
「・・・・・・春、香?」 
 そこには、肩で息をする天海春香の姿があった。 
「どうしちゃったの!?千早ちゃん」 
 心配そうな瞳。 
「・・・・・・なんでもない」 
「なんでもないわけない!」 
「・・・・・・っく」 
 まっすぐに春香は見つめてくる。怒気を孕んでいるのは、本気で心配してくれているからなの 
だろう。それを分かっているのに、千早の口は裏腹な台詞を吐く。 
「ほっといてよ」 
「ほっとけないよ!!ほっとけるはずない!!」 
 がち、と肩を掴まれた。 
「ねぇ、悩み事あるんなら相談してよ。そりゃ、私なんかに言っても解決できないかもしれない 
けど、そんなに思いつめてるならさ」 
「もういいの!ほっといてって言ったでしょ!春香に、私の気持ちなんて分かるはずないの!!」 
 言ってしまった。 
 そう思った。 
 なぜだろう。なぜ自分は、こんなことしか言えないんだろうか。 
 本気で心配してくれる友人を、傷つけることしか出来ないんだろうか・・・・・・ 
「分かんない・・・・・・よ」 
 春香は、目を伏せた。 
「分かんない!でも、でも!千早ちゃんにだって、私の気持ち、分かんないでしょ!!私がどれ 
だけ千早ちゃんのことが好きなのか!!」 
「・・・・・・春香」 
 春香の目は潤んでいた。 
「辛くて、苦しくて、逃げ出したいときに、どれだけ千早ちゃんの歌に助けられたか・・・・・・どん 
なに支えになってきたのか。千早ちゃんの歌がなかったら、きっと今の私は無かったんだよ。千 
早ちゃんは私の憧れだし、目標だし・・・・・・それに、かけがえのない友達なんだから」 
 次第に、声が涙混じりになっていく。 
「だから、ね、そんな悲しいこと、言わないでよ」 
「春香・・・・・・」 

 そのとき千早の瞳から、つぅっと涙の雫が一滴こぼれた。 
 あの男のいいようにされているときも、決して零すことのなかった涙。 
 そして、その一滴からはじまりに、とめどなく溢れてくる・・・・・・ 

「春香っ・・・・・・春香ぁ・・・・・・うう」 
 千早は春香の胸に飛び込んだ。そして、子供のように泣きじゃくった。言葉は何もなかった。 
そこには凛としたいつもの歌姫はもはやなく、ただもう衝動に任せて、涙が枯れるまで、泣き続 
ける、一人のか弱い少女がいるだけだった。 

「大丈夫、大丈夫だよ、千早ちゃん」 
 そんな千早の背中を優しく、母親のように春香は撫で続けた。胸元が涙で汚れるのも構いなく。 
「大丈夫・・・・・・うん、私が何とかしてあげるから。だから、千早ちゃんは安心して、良いんだよ・・・・・・」 


*********** 

『今日・・・・・・かに座の運勢は・・・・・・ラッキーカラーはグレー・・・・・で恋愛運好調、週末は・・・・・・』 

「おっはよーございまーす!!天海春香、今日も一番乗りで到着でーす!!」 
 ばん、765プロのドアが勢い良く開いた。 
 よく晴れた朝。窓から差し込んでくる朝日が眩しい。 
「って、あれ?誰もいない。鍵は開いてるのに・・・・・・不用心だなぁ」 
「・・・・・・ふわぁ」 
 むくり、ソファから布団の塊が欠伸と共に起き上がった。 
「うわ!びっくり、ってプロデューサーさんですか」 
「んあ、春香か。おはよう」 
 寝ぼけ眼に無精髭、おまけに来たままで皺くちゃになったワイシャツと冴えない格好三点張り 
のプロデューサーが伸びを一つ。 

『わんこは、世田谷区の・・・・・・ご主人様と散歩・・・・・・大好物の・・・・・・いつもご機嫌なのでした』 

「また帰ってないんですか?ああ、もうテレビもつけっぱなしで」 
 事務所の片隅では、朝の情報番組が流れっぱなしだった。 
「ああ、昨日も遅くてね。千早の新曲の収録で」 
「え・・・・・・はかどってないんですか?」 
「いんや、むしろ逆」ぽりぽりとプロデューサーは頭をかく。 
「千早ってまぁ、歌はずば抜けて今までも巧かったんだけどさ、今まで、スタッフのアドバイス 
とかあんまり聞かないで撮ってたんだよ。でも、どんな心境の変化か、千早のほうから周りの人 
に助言を聞きだしてさ」 
「へぇ・・・・・・」 
「なんかふっ切ったのかさ、ずいぶん周りとコミュニケーションとるようになってさぁ。作曲家 
とか作詞家も巻き込んで、熱の入った打ち合わせもがんがんしてさ、撮りの段階でもリテイクす 
るたびにどんどんブラッシュアップされて、いいものになるもんだから、製作巻き込んで連日夜 
中まで。おかげでこの通り、椅子眠り連泊だよ」 
「はぁ、それは・・・・・・大変ですねぇ」 
「うれしい悲鳴、ってヤツだよ。間違いなく次の曲は、凄い出来のものになる!今まで以上の、 
きっと、千早の代表曲って胸を張って言えるものになるぞー」 
「そうですか・・・・・・うん、良かった。それじゃ、プロデューサーさんにはもう一頑張りしてもら 
わないとっ。春香の特製スペシャルコーヒー、淹れちゃいますね!」 
「おう!目一杯濃い目でお願いするよ」 
「かしこまりました〜」 

『続いてのニュース・・・・・・昨夜未明、都内マンション屋上から、フリーライターの・・・・・・さんが、 
飛び降りているのが付近の住民の・・・・・・調べによりますと・・・・・・遺書の類はなく、警察では事件 
事故の両面から・・・・・・さんは普段から金融業者とのトラブルを抱え・・・・・・』 


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