春香【S】SIDE

作:名無し

「ストップストップ!やっぱり違うなぁ……可愛すぎてイメージに合わないんだよね」 
「う……ごめんなさい、プロデューサーさん」 

これで通算20回くらいは歌っただろうか。 
目の前にいる、リボンの似合う女の子……天海春香の新曲【エージェント夜を往く】を 
ファンの前に披露できるレベルになるまで、ひたすらレッスンを繰り返している。 

デビュー曲である【太陽のジェラシー】はボーカル系の恋心溢れる曲だったが、 
次は流行の事情も考えて、ダンス系のはつらつとした勢いが欲しかったのと、 
春香にもう一つ、新しい魅力を身につけて欲しくての選曲だったのだが…… 

いかにも【女の子女の子】した彼女にとって、【妖しげなオトナの魅力を歌う】という課題は、 
現時点では少々厳しい模様で、どう歌っていいか解らずにあたふたしている。 

(年齢的な観点から見ても、出来ないはずはないんだよな……) 
ボーカル系衣装のゴシックプリンセスを身に纏った春香の姿を見ると、 
年相応に育った健康的な色気を漂わせる肢体が、レッスン場のライトに映し出される。 
本来はジャージ姿でのレッスンだが、ステージで歌う事を想定しているため、 
『まずは形から』と着せられたものである。 
ギリギリまでに詰めたスカートの丈といい、肩と胸元の露出といい、 
パッと見た感じでは、申し分ないほどの色気を出している……はず。 
しかし、どこかが足りていない。 

プロデューサーの視点からあえて欠点を上げるとすれば、可愛い【だけ】ということ。 
あまりに真っ直ぐでファンに接してしまう彼女は、時折『一生懸命』が裏目に出て失敗する事も多い。 
以前、ラジオでファンの悩み電話相談をした時も、相手の悩みを和らげるどころか、 
真正面からバッサリと斬り捨ててしまう結果となり、プロデューサーが胃を痛める事となった。 

(もう少し、こう……裏の部分というか、ミステリアスな雰囲気が欲しいんだよな……) 
プロデューサーは、一瞬脳内で一つのシミュレーションをしてみる。 
目の前にいる少女【天海春香】の可能性。 
レッスン如何によっては、彼女の隠れた天性を見つけ出せるかもしれないが、 
無論、下手をすれば壊してしまうリスクを背負う事になる。 


『プロデューサーさん……わたし、歌う事好きです。トップアイドルになって、 
出来るだけたくさんの人を、歌で元気にしたいです!!』 

いつだったか、最初のミーティングで春香が口にした、確固たる信念。 
それが今も変わっていないとしたら……それを思えば、彼にこれ以上迷う必要は無かった。 

「春香……では、今から特別レッスンに切り替えてみよう。 
その代わり、少々常識の範囲からは外れるし、おおっぴらに他人に言えるレッスンでもない。 
それに、最悪の場合は……俺が春香の担当から外れる事にもなる」 
「えぇぇぇっ!?……そ、それはちょっとイヤかも……」 

『担当を外れる』という言葉に、春香は躊躇を隠しきれなかった。 
多少のハードスケジュールやオーディションの連戦には耐性が出来ているが、 
失敗したらお別れ、というのはさすがに彼女も納得できないでいた。 
「あー……まぁ、あくまで最悪の場合だ。春香が俺のプロデュースを『イヤだ』と言わない限り、 
そこまでの事態はあり得ないから……泣きそうな顔をしないでくれ」 
プロデューサーにそう言われて、やっと春香の強い緊張が解けた。 

「……それは無いですよぉ……ここまでレッスンとかお仕事一緒にしておいて、 
プロデューサーさんと別れるなんて……でも、凄く厳しいレッスンだと言う事は分かりました。 
新曲のためなら、ファンの人たちのためなら……どんなに厳しくても頑張ります。 
だから……特別レッスンお願いします、プロデューサーさんっ!!」 
春香が、びしっと背筋を伸ばして丁寧にプロデューサーにお辞儀をする。 

今現在春香の脳内には竹刀で叩かれ、泣きながらも必死にレッスンするという 
いかにもな感じの画が描かれているが、プロデューサーが考える『厳しい』というのは、 
肉体的ではなく、精神的な意味でのものだった。何と言っても、 

(SM調教と聞いたら……さすがに引くだろうなぁ) 
二人の思惑が全く噛みあわないまま、春香のためのSMレッスンが始まろうとしていた。 


■ 

「えぇぇぇぇっ!!……えっと、あのっ……SMって、黒くてえっちな服を着た女王様が、 
束みたいにいっぱいある鞭を振って、三角の木馬に乗った人をいじめたり……」 
「微妙に偏った知識だが、だいたいそんなもんだな。いいかい、春香…… 
普通の人が【SM】なんて単語を聞いた場合、まぁ……そのまんまの反応をするだろう。 
だが、一般人はあまりにSMに対して知識が無さ過ぎるんだ。 
これから春香に勉強してもらいたい魅力について、深く関わる事だし、しっかり聞いて欲しい。 
…… 
勿論、セクハラだ、嫌だと言うなら断ってくれて構わないし、 
他のレッスンを考えてもいい……でも、これは俺なりに考えた最適な方法だと断言しよう」 

「……」 
常識的に考えるなら、確かにこんな方法はどうかしていると思う。 
しかし、レッスンも仕事もオーディションも、すべて一緒に歩んできた春香から見れば、 
プロデューサーがただセクハラしたいだけでこんな提案をするとも思えなかったし、 
まだ見ぬ領域の扉を開けてみたいという気持ちもあった。 
彼女がプロデューサーに寄せる信頼は、簡単な事で揺るぎはしない。 
しかし……春香の貧しい性知識では、どうしても躊躇するような場面しか浮かんでこなかった。 



〜以下、春香の妄想。 

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「ふふふ……じゃ、もう一発いってみようか?」 
冷酷な笑みを浮かべ、プロデューサーが鞭を振り上げる。 
「い、いやぁっ……お願いです、許して……おしり、痛いですよぅ……」 

暗い地下室に、乾いた音が響きわたり、春香の綺麗なラインを描くお尻が、徐々に赤くなっていく。 
「きゃうっ!……あっ……い、いたっ……やあぁ……ひうっ!?」 
「痛いだけではないだろう?……ほら、叩かれてるのにこんなところが濡れてるなんて」 
プロデューサーが彼女の股間を擦ると、本当に少しだけ濡れている。 
ただの生理現象といえばそれまでだが、春香にとっては【叩かれて濡れてしまった】という事実が、 
彼女の羞恥心に火をつける結果となった。 

「だ、ダメぇ……プロデューサーさんっ……そんなとこ、触っちゃ恥ずかしいっ……」 
「ふふふ……そうかもな。叩かれて感じる変態さんがアイドルだなんて、実に恥ずかしい娘だ」 
「うぅ……そ、そんなぁ……」 

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〜妄想終了。 


(ひゃあぁぁ……どどどどどうしよう……わたし、プロデューサーさんに何を……) 
「……春香……春香っ!?」 
「……へ?あ、あれ……はっ!?すすすみませんっ!!わたしったらちょっと考え事しちゃって……」 
「多分、SMと聞いてヘンな妄想をしてるんだろうが、まずは基礎知識からだ。 
こう見えても、実践は危ないものだからな……とりあえず座ってくれ」 

言われるままに、春香はレッスン場の簡易椅子に腰掛け、プロデューサーが立っている黒板のほうを見た。 
「さて、春香……もしも実際にやってみるとしたら、SとMどっちがいいと思う?」 
「ふえっ!?」 

いきなりなプロデューサーの質問に、春香は目を白黒させる。 
「えっと……それはやっぱり、S……かな……だって、責められる方って痛そうですよぅ……」 
「いい答えだ、その通り。普通の人は大体がソッチを選ぶはずだ。 
誰だって痛いのはイヤだからな。しかし、それは赤の他人同士の場合だろう? 
俺だって、見知らぬ人間に痛めつけられるなんて御免被るさ」 

「知ってる人でも、痛いのはイヤですよ……」 
いちいちもっともな意見に、プロデューサーは大きく頷きながら黒板に何かを書き始めた。 
「その通りだ……だが、M属性な人間というのは、実はけっこうな割合でいるものでな。 
大好きな人間、信頼する人間から受ける苦痛に限り、痛みを気持ちよさに変換できたりするわけだ」 

【S】と【M】の文字を黒板に書き、その間を【信頼関係】という言葉で矢印を付けて表す。 
「まず、誤解しないで欲しいのは……Sの人ってのはこれでけっこう大変なんだ。 
傍目で見た感じだと、優越感たっぷりにMの人を好き勝手しているように思えるけど、 
実はMの人よりずっと気を使う。相手を壊しちゃおしまいだからな。 
自分勝手は許されないし、Mの人が気持ちいいようにいじめてあげるのは神経を使うんだ。 
相手の気持ちを考えないようなただの虐待とは、全然違う。そこは覚えておいて欲しい。 
これは、国民と王族の関係にも同じような事が言える……たとえば、 
豪華な服を着て贅沢な食事をしている王様とか皇女様を想像して欲しい。 
一見、国民から集めた税金で美味しい思いをしているように見えるが意外とそうでも無くてだな、 
国の政治、軍事を司る責任は一手に負わなければならないし、自由な結婚なんかもできやしない。 
国民の模範となることを義務付けられているから、ちょっとした軽犯罪でも致命傷になる。 
……トップアイドルも同じようなものかもな。普通の子供はちょっと酒を飲んだくらいで大騒ぎされないだろ? 
つまり、常に他人を優先させ、立場が上のように見えても実質は一番気を使う……それがSの人の役割なんだ。 
生半可な気持ちでSM嬢のバイトなんて始めた人は、その重責に耐え切れずに辞める事が多くてね……」 
「……プロデューサーさん、ずいぶん詳しいですね」 


さっきから聞いていれば、プロデューサーの説明は分かりやすく、SMにも詳しい気がする。 
それだけに、どこか納得いかないところがあった。 
(まさか、他の女の子とあんなことやこんなこと……) 
ジト目でプロデューサーを見つめる春香の表情を、彼は疑いからくるものと受け取った。 


「ヒット曲のイメージを掴むためなら、多少危ない橋は渡るのが俺の信条でね。 
法律に触れるようなことはさすがにしないけど、アブノーマルと言われる程度のものなら勉強したさ。 
それで、俺なりの考え方で春香に立派なエージェントとなって欲しい…… 
そう言うわけで、早速実践だ。この鞭で、俺を叩いてみろ」 

今日のレッスンが上手く行かないことを見越しての用意か。 
それとも、プロデューサーの性癖で普段から持ち歩いているのか。 
真相は分からないが、いきなり彼の鞄から出てきた六条鞭に春香は驚きを隠せなかった。 

「え、えっと……あの、あれ?わたしが叩くんですか?」 
いきなり鞭を渡され、痛みに耐えるつもりでいた覚悟が揺らぎ始める。 
彼女の乏しい性知識では、SMと聞くと、男が縛られた女性を鞭で叩いたり、 
ろうそくを垂らしたり、木馬に乗せたりするような図しか思い浮かばなかったから。 

「そうだ。春香は今から、乱れる悦びを教えるエージェントとして振舞うんだ…… 
自信を持って……でも、常に相手の欲求を見て、導いてあげる気持ちでだ」 
「うぅ……自信ないけど、やってみま……きゃあっ!?……ぷ、プロデューサーさんっ!?」 

指名された次の瞬間から、見習いエージェントは真っ赤になって手で顔を隠す。 
手際よくプロデューサーが服を脱いで、上半身を露出させたのだから。 
「どっ……どうして服を脱ぐんですかっ!?」 
「そりゃ、プレイの時には脱ぐもんだろう……鞭で叩きすぎて破損したら勿体無いし」 
「それはそうですけど……」 
顔を覆う両手を僅かに開き、指の隙間からプロデューサーの肉体をそっと見てみる。 
細身ながらもしっかりと筋肉の付いた身体は、逞しさを感じさせる。 
本来女性は視覚から性的興奮を得ることは得意ではない。 
しかし、気にしている男性の裸をいきなり見せられては、恥ずかしさを隠せない。 
『この、広い胸に抱きついたらあったかいかも……』という妄想が浮かび、 
心臓の鼓動が早まり、テンションが急上昇してしまう。 

「えっと……じゃあ、いきますね。痛かったらごめんなさい……えいっ!」 
まだ何も知らない春香は、とりあえず怪我をしないようにと緩めに鞭を回し、 
プロデューサーの背中に振り下ろした。 



六条鞭の乾いた音が、レッスン上全体に響く。 
騎乗鞭や一本鞭と違って、複数本の尾がある六条鞭は痛みの割りに音が大きい。 
プロデューサーから見ればなんでもない刺激でも、春香から見ればその大きな音で、 
ずいぶんと痛そうな事をしてしまったと感じられた。 
「ひゃあぁぁっ!?……ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!? 
……痛かったですよね?ね?プロデューサーさん……」 
「全然平気だ」 
「えぇっ!?………う、嘘っ……だって、あんなに音が大きくて……」 
「小さな刺激で大きな音が出るように作られているのさ、この鞭は。 
……さすがに顔や目に当てるのは危険だけど、背中くらいなら問題ない。 
俺も、痛いときはちゃんと言うから遠慮はするな。曲とファンのためだと思え!!」 

確かにプロデューサーの言うとおり、Sの人というのも神経を擦り減らす大変な仕事だと思った。 
たとえ本人が望んで叩かれたいのだとしても、相手の望むように、相手を壊さぬように…… 
信頼されているからこそ慎重に、気持ちを込めて。 
「いきますっ……えいっ!!」 
今度は、自分でも当たるとかなり痛いと思える強さでプロデューサーを叩いた。 
「おうっ!?」 
びっくりするような音と共に、プロデューサーの身体が仰け反った。 
「いい感じだ……もうちょっと強くても大丈夫だぞ」 
「え……そ、そうなんだ……」 
ちょっと興味が沸いてきたのか、自分の腕を軽く鞭で叩いてみる。 
全体の半分、3本ばかりの尾が当たり、気持ちよい大きさの音を立てた。 
(あ……本当だ。音の割りに痛くない……けっこう不思議で面白いかも) 

二、三度強さを変えて叩き痛みと音を把握したら、もう一度プロデューサーに鞭を振ってみる。 
今度は会心の一打とばかりにいい音が鳴り、レッスン場内すべてに響いた。 
「い、いいぞ……その調子で続けるんだ」 
「うぅっ……やっぱり他人に痛いことするのってやりづらいです……」 
「そうだな……その意識は人として大切だから常に持っておけ。 
ただし、相手が望んでいる場合は遠慮してはいかん。 
自分だけの常識は、今は捨てるんだ。叩くのは相手のためだと思え!」 

慣れない事に対して無理をする以上、春香にとってこのレッスンは厳しかった。 
自分が辛いのはまだ耐えられるが、他人の痛みは味わう事が出来ないし、耐えようもない。 
厳しい、とプロデューサーに言われた事の意味が、よく分かる。 

「辛いだろうがこれはレッスンだ。俺なら丈夫に出来てるから、春香が思いっきり叩いても 
壊れやしないさ。そうだな……普段の厳しいレッスンの仕返しと思って来い!」 
「うぅ……は、はい……じゃあ………えいっ!!」 

肘から先だけでなく、肩から上腕までを使って大きく鞭を振る。 
さすがに径が大きいのが効いているのか、今までで一番大きな音がレッスン上に響きわたった。 
「ぐっ……いい感じだ……もう一回!」 
プロデューサーの指示通りに大振りし、新たに彼の背中に赤い痣を刻んでいく。 
鞭を振り下ろすたびに、春香の心に変化が現れ始めた。 


ただ、感情をぶつけて発散させるような薄っぺらい歓びではない。 
それなら相手は人である必要が無いし、陶器などを割ったほうが破壊衝動は満たせる。 
かといって、虐待衝動のような歪んだものでもない。 
その証拠に、プロデューサーが喜ぶような声を聞き分けるようにつとめ、 
極力彼の気持ちいいように叩く。気持ち良さそうな声を聞くと、春香も充実感を感じる。 
それは初めて味わう感覚であり、背筋がぞくりとなるような気持ちよさだった。 

「プロデューサーさん……こんな声、出したりするんだ……」 
「はは……俺も最近気付いたさ。でも、あくまで信頼する女の子だけだぞ、叩かれたいと思うのは」 
信頼するからこそ成り立つ、アブノーマルでありながらもバランスの取れた関係。 
新たに分かった自分の側面を、もっと見たいと望んだ春香が次に取った行動は、 
形だけでも本格的に、女王様……いや、エージェントとなって獲物に接する事だった。 

ゴシックプリンセスの衣装は黒をベースにしているため、スカートを脱いで上着を捲ると、 
丁度良い具合に白いブラとショーツが露出し、奇妙な形のスーツにも見える。 
「おい、春香……それはやりすぎじゃ……」 
「本気でエージェントになるために、思うことは全部やっておきたいんです……ダメですか?」 
「いや、その気概は大いに結構だし、個人的にも嬉しいが……春香は構わないのか?」 

無論、春香とて下着を見られて恥ずかしくないわけが無い。 
しかし、プロデューサーが身体を張って特別レッスンをしてくれた以上、 
自分も何か身体を張りたい、レッスンを成功させるために何でもやりたいという一途さが、 
羞恥心に打ち勝った。 
上下の下着ともに純白のレース模様で、女王様と呼ぶには清純すぎるものではあったが、 
衣装の黒が一層下着を引き立て、これはこれで特殊な色気を漂わせる。 

外見からも女王様兼エージェントとなった春香は、プロデューサーの引き締まった身体を凝視する。 
彼は気持ちいいと言うが、背中にはかなりの数の赤い線が走っていた。 
これ以上肉体を責めるよりは、言葉で責めて気持ちよくなってもらおう。 
誰から教わるでもなく、春香は相手を気遣いながらも自分のSっ気を満たすという離れ業をやってのけようとしていた。 

「プロデューサーさ〜ん……さっきから前かがみになってますけど、もしかして……」 
「……っ!?」 
「あ……やっぱり、おっきくしちゃってるんですね……わたしに叩かれてえっちな気分になったんですか?」 

これ以上は、プロデューサーの指示に無いことだ。 
しかし、心身ともにエージェントとなった春香は、プロデューサーの身体の状態を把握し、 
次に自分がなすべきことを自力で見つけ出した。 
「えっと……手で、してあげますね。そのままだと辛いでしょうし……」 
慣れない手つきでプロデューサーの股間に手を伸ばし、怒張したものにそっと触れる。 
言葉の上ではまだ完全になりきれていないが、 
その心意気だけはエージェントとしての役割を掴んでいた春香だった。 

(きゃ〜……これが男の人のアレなんだ……熱くって、びくびくしてる……) 
小さい頃、風呂の中で見た父親のものとは全然違う感触。 
保健体育の授業で、男の人は海綿体に血が集まってなんだかんだという解釈を 
聞いたような記憶はあるが、想像するのと実際に触ってみるとでは感覚がまるで違う。 
(えっと……うーん、どうしよう……今はプロデューサーさんに聞くわけにいかないし……そうだ!) 
まだ緊張が残り、ぎこちない口調だが、今の立場を崩さず事を進めるために 
春香は一つの方法を思いついた。 

「さあ……どうして欲しいんですか?ちゃんと声に出さないとしてあげませんよ」 
プロデューサーの耳に優しく囁き、優位性を保ちながら知識を引き出そうとする。 
そしてそれは、慌てて思いついた作戦にしては良い方法となった。 

「まずは……服から出して握って欲しい……そして、ゆっくり上下に擦ってください……」 
「はい、よくできました♪それじゃ……触ってあげますね」 
お互いドキドキしながらも、この奇妙なSMレッスンは少しづつ進んでいった。 


ズボンのジッパーを下げて、トランクスから張りつめたものを出してみると、 
それはすでにはちきれんばかりに大きくなっていた。 
春香もはじめて見る怒張した男のそれは、良く知らないのに見ているだけでドキドキする。 
さすがにこの部分だけは、さっきと同じような試し方はできそうにないな……と思いながら、 
そっと茎の部分に、そのか細い指を巻きつけ、きゅっと握ってみた。 

「ぅおあっ……」 
プロデューサーの背筋がぞくりと震え、うつ伏せになった机から上半身を大きく仰け反らせる。 
(ひゃぁっ……男の人でも、触っただけでこんなに反応するんだ……) 
サテン地の黒い手袋が余計に感触の良さを増幅させて、春香に触られているだけで気持ちよくなっていく。 
丁度良い抵抗感とぎこちない感じの触り方は絶妙で、男性のものを触った事が無い春香でも、 
どうにかプロデューサーを気持ちよくする事が出来ていた。 
それは、【アイドルに大事なところを触られている】という非日常性の興奮でもあり、 
先程、何度も鞭で叩かれて、感覚が鋭敏になっているせいでもあった。 

「もっと……強く握っても、いい……スピードも早めてください」 
「あ……は、はいっ……えーっと……っ!?」 
不意に、掌から感じる摩擦係数が変わったことに春香は戸惑いを感じた。 
プロデューサーの先走り汁で、ゴシックプリンセスの黒い手袋が濡れている。 

(ひぃやぁあ……どどど、どうしようっ……でも、これ……気持ちいいって事……だよね?) 
今は女王様としての立場か、すぐにプロデューサーに助けを求めるような事はしない。 
目の前の人を気持ちよくしてあげたいという思いが、決心が……彼女の不安を一時的に吹き飛ばす。 
竿をしごくスピードを上げて、時には袋や先端部分にも触れながら、労るように彼のものを弄る。 

「叩かれてこんなになって……プロデューサーさん変態っぽいかも……」 
「だな。でも、それは春香だからだよ。大好きな娘から受ける苦痛に耐える喜びってヤツなんだが……」 
「うーん……やっぱりまだ、良く分かりません。でも……プロデューサーさんが今、 
本気で感じてくれてるのは分かりますっ……だから、もうちょっと……」 

より刺激を強めるために、春香はプロデューサーに覆いかぶさるような格好で、彼の背中に体重を預ける。 
すると、ブラジャー越しではあるが、春香の豊かな胸のふくらみが彼の背中に当たる。 
数回に及ぶ鞭のおかげで感覚はかなり鋭敏になり、股間のものがより強く反応した。 



(うわぁ……男の人のアレって、こんなに大きくなるんだぁ……それとも、プロデューサーさんのが 
おっきいのかなぁ……アイスキャンデーよりもおっきいのが、熱くてびくびくいってる……) 
女性にとっての大事な部分を同列と考えると、自然と扱いもデリケートになってくる。 
興味は尽きる事無く、しかし下手に乱暴に出来ないという事態が春香にとっては多少もどかしいものに感じた。 

が、彼女の予想に反して触り方が優しい割にプロデューサーは気持ち良さそうにしている。 
ただ触られているだけなのだが、春香の胸がブラジャー越しに密着している事と、 
いつも顔をつき合わせているとはいえ、【アイドル】という特別な存在が彼の股間を弄っているという事実に、 
男としての本能が猛り狂っているのだが、彼女がそれを察する術は無かった。 

ただただ、いつも自分を導いてくれる大事な人が自分の手で感じてくれる。 
それだけは確かな事であり、彼に自らの手で快楽の絶頂へと上り詰めて欲しいと思った。 
「いじるだけじゃ、ダメですか……もっと、舐めたり吸ったりするのかなぁ……」 
「おい、春香!?それはいくらなんでもやりすぎ……」 
「でも、間違ってるわけじゃないんですよね?」 

快楽を受け入れながらも、プロデューサーとしての立場が春香の奉仕を拒絶する。 
危ない橋も渡る、とは言ったが、レッスン場でこんな事をしているなんてまともに考えればとんでもない。 
(……この世界の何処に担当アイドルに自分の○×△を舐めさせるプロデューサーがいるよ!?) 
だが、気持ちよかったことは否定しようが無いし、女王様としての立場にいる春香も止めるつもりは無かった。 
「えっと……その、失礼、します……ね……」 
「ちょ……春香!?汚いって!……おうぁっ!?」 

袋の部分をしなやかな指で揉みながら、プロデューサーのものに春香の舌が這う。 
あたたかく、絡みつくような彼女の舌先はとても気持ちよく、脳髄を突き抜けるように快楽が全身を駆け巡った。 
(わぁ……ちょっと舐めただけで、プロデューサーさん……こんなに気持ち良さそう) 
彼が痛がっていないことを確認して、春香は棒の先まで舌を伸ばした。 
そして、半分くらいを軽く噛んで歯と舌の両方を使って彼のものを刺激する。 
「うぁ……そ、そこ……ヤバいっ…」 
「ふぅん……ここなんですね。覚えましたよ……プロデューサーさんっ」 
合図の代わりに、もう一度彼の感じる部分を刺激して反応を確認する。 
春香にとってはじめて見るそそり立った男性器は正直不気味だったが、 
これに触れることでプロデューサーが色々と反応するのを見るのは、何だか妙に楽しいと思えた。 


見ること自体に慣れると、今度は舌を這わせたり、息を吹きかけたりと行動の幅を広げてみる。 
すると、女性の大事な部分同様にちょっとした刺激で面白いくらいに反応してくれる。 
普段、厳しくレッスンしたり、営業では頼りにしているプロデューサーが、自分の手の中で快楽に溺れている。 
その事実が、春香のテンションを少しづつ上げていった。 
もはや先走り汁か春香の唾液か分からないが、液体でぬるぬるになったプロデューサーのものを、 
サテン地の手袋が何度も上下に撫でて行く。 
下着姿同然のアイドルにここまでされて、プロデューサーの股間が爆発するのは時間の問題だったが、 
なにぶんまったく性知識の無い春香にとって、男性の絶頂を導く方法など知る由も無かった。 
このまましごき続けていれば良いのだが、不安を感じた春香がその手を止める。 
奇しくも、それは絶妙な焦らしとなってプロデューサーの心を動かした。 


「わたしがいいって言うまで、出しちゃダメですよ……」 
できるだけ焦りを表に出さないようにプロデューサーに囁きかけ、春香は小さく深呼吸した。 
目の前にあるのはプロデューサーの股間。そこに着いているのはいきり立った男性のシンボル。 
(……多分まだ、千早ちゃんもあずささんも……見てないよね。……うん) 
女性と違って、男性が性器を見られてどれだけ恥ずかしいか、春香には分からない。 
しかし、まだ誰も見ていないであろうプロデューサーのソレを今、自分が見ているというのは 
なんとも言いがたい優越感や戸惑いが脳裏に渦巻く。 

言われたとおりに鞭で叩くだけでも良かったのかも知れないが、 
何故か流れに任せてこんな事になってしまっている。 
レッスンをこなして、立派なエージェントになりたいという向上心と、 
自分のために危ない事までしてくれるプロデューサーに気持ちよくなって欲しいという気持ち。 
それらが混ざり合うと、不思議とプロデューサーの股間にあるものが不気味でなくなってくる。 
赤く怒張したものを舌先で舐ったかと思うと、次は軽く口に含んで頬の粘膜で転がしてみる。 
すると、面白いようにプロデューサーは背中を仰け反らせ、反応する。 
それが何だか気持ちよく、誇らしい気分に感じられた。 

(わたし今、プロデューサーさんの事、気持ちよくしちゃってるんだよね…… 
普段大人で、頼りがいがあって、レッスンでは厳しいプロデューサーさんが、私に大事なところを 
舐められて、あんなに可愛く……ひやぁうっ……) 
「は、春香……いや、女王様っ……そんなに吸ったらやばいっ……!?」 



春香の細くて柔らかい指が袋を刺激し、尿道から熱いものがこみ上げてくる。 
このまま竿をしごかれたら、どんなに我慢しても無理であろう事が自分でもはっきりと分かった。 
「う〜ん……どうしようかなぁ……そろそろ出すのを許してあげてもいいですけどぉ……」 
もう、止まれないと分かっているからこその春香の譲歩。……いや、罠とも呼べる。 
我慢しきるという選択肢はすでに無く、欲情のすべてを放ちたくてたまらない心理を利用して、 
そこに条件を付けてやれば、彼はそれに飛びつく以外に方法は無いのだから。 
もっとも、春香がそんな心理的駆け引きを知っているわけではない。 
プロデューサーの感じる顔を見て、自然に意地悪してみたくなっただけなのだが、 
結果としてそれは十二分に女王様としての資質を証明する事になった。 

(春香の手と口で、俺をイかせて下さい……って言ったら、出してあげますよ) 

という言葉を出すつもりだったのだが、口から出たのはまったく別の一言だった。 
「【喫茶室ななつき】のピーチタルト……食べたいです……」 
「わ、分かりました!今週の営業終わったら連れて行く、だから……」 
返事の変わりに強く口をすぼめ、最後の堤防を決壊させる。 
「うあ……で、出るっ……もう、ダメだっ!!離れて……」 

最後の言葉を言い終わる前に彼のものが一度、大きく打ち震え…… 
散弾銃のような精の迸りが、勢い良く春香の顔と胸に飛び散った。 

アイドルが自らの手と口でしてくれるという非日常性は、 
普段、自室でひっそりと行なう自慰行為とは快楽の質が比べ物にならない。 
禁欲生活をしているわけでもないのに、春香の口でしごいたそれは、 
普段と比べ物にならないほどの爆発を繰り返し、ゴシックプリンセスの衣装を 
かなりの割合で白く染め上げた。 

「きゃっ……あ、熱い……これ、プロデューサーさんの、えーと……」 
出されたばかりのそれは、体温以上の暖かさで春香の顔に降り注いでいた。 
「う……は、はるか……俺は……」 
射精の気持ちよさにしばし蕩けた目をしたプロデューサーだが、 
目の前に顔と衣装を白く染めた春香を見て、何とか快楽に流されかけた意識を戻す。 

「俺は……そうか、春香の手で気持ちよくなって……って、ヤバい!?」 
突然、弾かれたように身を立てると、春香の下に歩み寄って彼女の肩を抱いた。 
「春香っ、脱いで!!」 
「えぇぇえっ!?」 


言うが早いか、ゴシックプリンセスのオーバースカートを外し、胸元のリボンを解く。 
「きゃっ!?……ぷ、プロデューサーさん……いきなりっ」 
無言で背中のジッパーを下ろし、二の句を告げる暇なくドレス本体を取られる。 
ものの5秒とかからぬうちに、リボンと靴以外は下着姿にされてしまった。 
「だ、ダメっ……いきなりそんなの、イヤですよぅ……せめて、ちゃんと告白…あれ?」 

ショーツを隠す春香の目に映ったのは、ダッシュで洗面所に向かうプロデューサーの背中だった。 
「その手袋も洗うぞ!!早く処理しないと手遅れになるから着いて来い!!」 
「え……えっと……あれ?わたし、何を……」 
何を期待していたんだ?と自分で思い返し、瞬時に顔が真っ赤になる。 
つい、その場で押し倒されて、あんな事やこんな事になってしまうと思った自分が恥ずかしくて。 

「はやくっ!!男のアレは、浸透圧が水とは違うんだ!ステージ衣装がダメになる前に!!」 
こんな時でも職務を忘れないプロデューサーに半分感心し、半分複雑な気持ちになりながらも、 
春香は手袋を脱いでプロデューサーの後を追い、洗面所へと急いだ。 
さっきの恥ずかしい勘違いを、脳に封印しながら。 


「……これでひとまず安心……かな?」 
特殊な洗剤に衣装を浸し、やっとプロデューサーの顔に落ち着きが戻った。 
彼に手袋を渡してから、急いで更衣室に戻って普段着に着替えた春香が横に立つ。 
「お……お疲れ様ですプロデューサーさん。なんか、すみません……やりすぎちゃったかも」 
「それはお互い様だ。でも、ちゃんと掴んでくれたみたいだしOKさ。 
衣装は最悪お金で何とかなるけど、春香のレベルアップだけは金で買えないからね」 
「えっと……それなんですけど」 

あんなので、本当に何か変わったんですか? 

彼女の目は、そう言っていた。 
それを察したらしく、プロデューサーは澄んだ目で彼女を見つめ返し、 
「こればっかりは口で説明できるもんじゃないからな……【空気を読む】ってのは、 
理屈でどうにかするモンじゃないし、掴んでしまえばあっという間なんだよ。 
それに、叩きながら分かってきただろう?俺がどんな叩き方を望んでいたか」 
「うーっ……全部わかったわけじゃないですよ。毎回、【こうなのかな?】って思いながら、 
迷ってましたし……正直、自信ないです」 
「それでいいんだ。中途半端に【分かった!!】と勝手に解釈する方が危険なんだ。 
常に相手の気持ちを考えて、迷いながらも毎回的確な判断を下せるのが重要って事さ。 
あとは訓練と自信だ。レッスンはまだまだ続くけど、今の気持ちを忘れなきゃ大丈夫。 
本当によく頑張ったよ、春香」 

まだ濡れた手で、プロデューサーは春香の髪を撫でる。 
洗剤の匂いと冷たい感触。今は何故かそれが心地良く、プロデューサーの笑顔が、 
何よりも嬉しいと思えた。 
「はい!レッスンありがとうございました、プロデューサーさん」 
彼に返す笑顔は、もうエージェントや女王様ではなく、太陽のようなアイドルの笑顔だった。 



■ 


それから約一ヶ月。 
社長の紹介で招かれた、何処の誰かは分からないが、おそらく政財界の偉い人が 
ホテルのスイートルームで春香と一緒にいた。 

約束の時間が終わったらしく、彼が部屋を出ると、出口で控えていたプロデューサーが恭しく一礼した。 
「特別レッスン、ありがとうございました」 
その人は何事も無かったようにネクタイを正し、 
「なに、こちらも楽しませてもらった。また何かあったらよろしく頼むと高木君に伝えてくれたまえ」 
と、こちらも紳士の見本のような振る舞いで挨拶を済ませ、部屋を出て行った。 

「……春香、もういいか?」 
部屋をノックしながら、先程の偉い人(?)と一緒の部屋にいた彼女に声を掛ける。 
『いいですよ』の返事を聞き、彼は部屋の中に入り、春香の様子を見た。 
もうすっかり着替えも終わり、使用された道具を片付けている。 
「お疲れ、春香。社長の紹介してくれた人だから大丈夫とは思うけど……どう?」 

一応、【特別レッスン】の最中に何かあった場合はプロデューサーを呼ぶことにはなっている。 
それが無かったと言う事は、彼女が無事と言う事になるのだが……やはり直接聴くまで安心できない。 

「はい♪今日のレッスンも良く出来たと思います!!あの人、穏やかな顔してたでしょ?」 
「……言われてみれば、最初の警戒感は感じなかったな」 

プロデューサーとの秘密のレッスンが終わってから…… 
彼らは、社長の人脈を借りて【女王様】としてのレッスンを受けていた。 
これにお金が発生すると枕営業になってしまい、法律的にアウトとなってしまうが、 
知人の好意でレッスンを受けるという体面を使って、何とかマスコミ関係を掻い潜りながら 
このレッスンを一月近く続けていた。 
「プロデューサーさん……あのね、さっきのお客さん……じゃなくって、講師さんの具体的なお仕事とかって、 
聞いちゃいけないみたいなんですけど……あの人、音楽業界のすごく偉い人みたい」 
「ああ……俺も社長に連れられていったパーティーで見たことあるかも」 
「でも、そんな人がわたしに叩かれて喜ぶなんて……ヘンですよね、芸能界って」 
「そうだな」 



流れ上彼も同意するが、別にヘンではない事くらいは分かっている。 
トップの人間というものは、立場上社内の誰かに弱音を吐いたりは出来ない。 
普通は家族や友人に頼るものだが、孤独な人はそうは行かない分、こんな場所に救いを求める。 
しかし、地位のある人が風俗街のSMクラブなどに行くなど、醜聞のタネを植えるようなものだ。 
そこに、信用の置ける人間からの紹介で、絶世の美少女アイドルが自分を責め立ててくれる場所を提供したら? 
Mな属性を持つ偉い人にとって、これ以上安心してストレスを発散できる場所は無かった。 

「あ、でも……エージェントの気持ちって、少し分かってきたような気がします」 
「ほう?」 
道具の片付けを終え、休憩しながら春香が嬉しそうに喋り始めた。 

「言葉で少しづつ虐めながら……叩いたり、軽く噛んだりすると……普段すっごく地位があって、 
多分かなり偉い人が、子供みたいな声でおねだりしてくれるんです。 
それも可愛いって思うんですけど、やっぱり最後は手でしてあげて、出してあげた後…… 
『良く頑張ったね……偉いですよ♪』って、褒めてあげた後なんですよね。 
何ていうか……その……すっごく幸せそうな顔してくれるんですっ♪コンサートで私の歌を聴いてくれた、 
ファンの人みたいに、『生きてて良かった』って言ってくれてるみたいな顔…… 
わたし、この笑顔のために、レッスン受けてて良かったなって思いました」 
「50過ぎた、むさいおっさんの笑顔が、か?」 
「むぅ……歳に関係なくみんな可愛いですっ!!プロデューサーさんだってそうだったもんっ!!」 

いずれにせよ、そこまで考えるようになってくれたとあらば、彼としてもレッスンは大成功と思える。 
時に厳しく、時に優しくして、最後は最高の高みへと誘うもの…… 
それは、一流のプロデューサーも、エージェントも同じなのかもしれない。 
「さて……ボーカルレッスンもどんどん良くなってきてるし、来週あたり新曲発表といきたいね」 
「えぇっ!?ついに発表していいんですか?」 

「ああ。ボーカルもビジュアルも、頃合だ。そろそろ記者会見でも開いて、ニュースにしたいな。 
【天美春香、待望の新曲をリリース】って」 
高級ホテルの一室で、安い缶ジュースで乾杯しながら、その日のレッスンは幕を閉じた。 
輝かしい新曲のお披露目を夢見ながら。 



■ 


「只今営業から戻りましたー♪」 
「あら、お帰り春香。最近テンション高いわね」 

律子、小鳥、社長がオフィスのTVを見ながら一仕事終えたアイドルの帰還を喜んだ。 
新曲の発表を控え、積極的に営業活動をこなす様は、傍で見ていてもエネルギーに満ちている。 
社長とプロデューサーだけが厳密な理由と知っているが、当然こんな所で口にはしない。 

「そう言えば、最近営業でもTV出演増えてきたじゃないの。そろそろ歌だけじゃなくって、 
バラエティ番組とかの仕事も考えておきなさいよ」 
そう言いながら皆で見ていたのは、お笑い芸人中心のバラエティ番組で、 
罰ゲームを受けてハリセンで集中的に叩かれる芸人さんの映像が映っていた。 

「あ……ああんっ!ダメですよそこで顔あげちゃ!!」 
「へ?」 

ポカンと口を開ける律子を筆頭に、765プロの全員が固まっている。 

「あと一発、おっきいのをもらった方が番組的に美味しいのにっ!! 
ああっ、しかもベタにカメラに向かって泣いてるし……こういう場面だったら、 
もう一つためを作った方がテンポが良くなって次に繋げやすいのにぃ…… 
リアクション芸人を名乗るんだったら、もう少し手際よく打たれてくれないと!!」 

「………」 
皆が黙り続ける中、春香は止まらない。 
「しかも、叩く方も叩く方ですっ!!そんな場面で手を抜いたら、誰のためにもなりませんよ!! 
あと一発、顔に入れた方が笑いも取れるし芸人さんの株も上がるのに…… 
私だったら、こう……反動をつけて、ぱーん!!って、すぱーん!!って……あれ?」 



「……春香……ちゃん?」 
律子の、春香への呼称が変わっているのを見るに、相当動揺しているのだろう。 
約二名……春香がここまでリアクションに詳しい原因を知っている人間がいるが、 
当然ながら皆の前では何も言わず。 

「あれ……あれ?あ!!……あ、あはは……その、えっと……うん、最近お笑い番組見てて、 
ちょっと……ちょーっとだけリアクション芸人さんとか、勉強したんですけど……」 
本当にちょっとか?、と、ここにいる誰もがそう思った。 
それほど、プロデューサーと必死に勉強したこの一ヶ月は彼女にとって大きな成長だった。 

「春香……新曲お披露目の前に、ダンスレッスンな。まずはこれからランニング」 
「えぇっ!?……だ、だって営業行ってきたばかりで……」 
「【エージェント】はダンス曲だぞ……ボーカルとビジュアルばかり高くてどうするよ!? 
……あと、ファンの前で迂闊な事言ったりするかもしれないし、その辺も踏まえて特訓だ。 
俺も付き合うから安心しろ。無駄口を叩く暇も無いくらい鍛えてやるから。それに!!」 
「……それに?」 
「この前、ピーチタルト3個も食っただろ?2個分はダンスで頑張って落としてもらうぞ」 
「ひゃうっ!?……あっ、ちょ、プロデューサーさんっ、ひっぱっちゃダメですぅ……」 

慌ただしく連れて行かれる春香を見て、事務所スタッフ一同とアイドル一人は溜息をついた。 
「うーん……大丈夫かしらね……春香ちゃん」 
「さぁ……」 
春、それは出会いと成長の季節。 
天真爛漫、を地で往く彼女を見て、最後に社長が的確な言葉で締めた。 

「はっはっは……まぁ、それも含めて、天海君の個性だよ。きっと」 




■おしまい。 


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