律子さん、いらっしゃ〜い♪

作:名無し

「あの……本当に近くを通ったから寄っただけでして、お気遣い無く……」 
「ん〜でも、せっかくのお客様ですし……このお菓子、すごーく美味しいんですよ〜 
それに、律子さんも今はお仕事上、厳しいダイエットは必要ないでしょうし〜 
……あ、そうでした〜すごくいいお茶もあるので、ぜひもう一杯……」 
「いえ、だから……」 

昔から変わらないといえば変わらないのだが、人の話を半分聞かずに次々と 
名物のお茶やお菓子をすすめてくる様は、まるで田舎のおばちゃんを連想させる。 
ただ一つ違っている事は、その本人があまりにも美しくたいていの男は言われるままに 
従ってしまうであろう事。 
多分、保険の外交員とかやったら大成功するタイプの人間かもしれない。 

「……アイドル以外にも向いている仕事、あるじゃないですか……」 
勢いに逆らえず、上品な手つきでお菓子を食べる律子は、聞こえないようにぼそりと呟いた。 
「うーん……本当に懐かしいわぁ〜♪765プロのみんな、元気かしら〜」 
「そうですね、まずは何から話しましょうか……元気でいることには変わりありませんよ。 
やる気の無い新人が一人、入ったコトくらいでしょうか」 

アイドルからプロデューサーへと転向した事により、彼女…… 
秋月律子の話術は一段レベルアップしていた。 
短時間で的確に要点を話し、かつ相手が興味を引くようなネタを随所にちりばめる。 
相手のリアクションを見て反応が悪ければ話を変え、時折相手にも質問させて 
一方的な独演にならないように配慮も見せている。 

「……それで、プロ……じゃなかった。旦那様はお元気ですか?相変わらず朝が弱いとか……」 
「そうなんですよ〜わたしもあの人も、朝は苦手じゃないですか〜だから、この前8時に起きて、 
配達に行く時も二人いっしょに目が覚めたのが8時半で〜あの時、思わずわたしったら 
『あなた!時間がヘンです〜!?』 
なーんて言ってしまいまして……奇跡的に間に合ったのですが、あの時は焦りました〜 
そうそう、焦るといえばあの時も……」 

本当に、そのルックスを覗けば田舎のおばちゃん化しているかもしれない。 
現役時代も天然100%だった彼女の事を考えればそれも納得できる。 
が、律子の方も大したもので、話はしっかり聞きながらもあずさの話が間を置いた時点で 
すかさず質問やリアクションで切り返し、的確に話の流れを作る。 

「もう、お二人が765プロを退社なさってから、半年になるんですね…… 
正直みんな残念がってましたし、今の生活がつまらないなら復帰を持ちかけたかったんですが、 
必要無さそうですね。あずささんの顔見たら……全部、分かっちゃいました。 
………しあわせ……なんですね、すごく」 

「ええ♪とても!!」 


その笑顔には一点の疑いも迷いも無い。 
見たものは男女関係なく癒される、現役時代も大きな武器となったその笑顔と、 
相変わらずの破壊力を秘めた、その可愛らしい顔に不釣合いなダイナマイトバディ。 
ダイエットはしていないんですか?という律子の質問に、あずさは 
『お掃除とか、洗濯とか……色々してたら、意外と太らないみたいです』と、 
妙にあっけらかんと答えを返してきた。 

律子の脳裏に、現役時代二人で懸命にダイエットした思い出が蘇るが、 
もっと前からそんな話を聞いていれば、やよいの掃除を積極的に手伝っても良かったかもしれない。 
「……下手すれば、生活が不規則な私よりも綺麗かも。参ったなぁ……」 

あずさと同時期くらいの引退後、律子はプロデューサーへと転向した。 
元から経営を志していただけあってその活動はおおむね順調だったが、 
どうしてもデスクワークや営業活動を重ねると、現役時代のスタイルを保つのは難しい。 
今はまだ若さのおかげで基礎代謝が活発だが、これからの生活と運動量の減少を考えると、 
どう計算しても明るい未来は見えなかった。 

しかし、枕営業をするわけではないが、元アイドルという肩書きは常について周り、 
ステージ衣装からスーツ姿に変わった今もルックスには神経を使っている。 
身だしなみとて大切な仕事の一環だと言う事は、以前のプロデューサーから教わった事だから。 


「それにしても〜うちの近くに、そんなハイテク工場があったんですね〜 
わたし、機械は全然わかりませんけど……世界一の技術なんですよね?」 
「ですね。ハイパワー以上にコンパクト化を目指すのが日本の技術ですから」 

今、お茶やお菓子と共にテーブルに置かれているのは、近くの工場で作っているという、 
現行で世界一の性能を誇る超小型カメラだった。しかも録音もできるというおまけ付き。 

律子が現役アイドル時代……といってもほんの8ヶ月前の事だが、 
理系出身の頭脳派アイドルという特性を活かして、未来系科学番組のメイン司会をした事があった。 
その縁で、時々今も765プロに仕事を回してもらうのだが、 
たとえ機械系に詳しくなくとも、やよいの動物的勘を利用したレポートとか、 
春香のどじっ子ぶり全開のレポートとかが話題になり、今でも視聴率は好調だ。 
律子もソレを見て、ただただ優秀に、滞りなく進行させるだけが仕事ではないと知らされた。 


テーブルに置かれているその高性能小型カメラは、次の収録に備えて事務所が借りた試作品でありながら、 
次週の番組でドッキリ企画に使われるためのものでもあった。 
プロデューサーとなった律子は、ドッキリ企画の打ち合わせも兼ねてその工場で支配人と話した後、 
あずさと、かつてのプロデューサーが退社後に暮らしている家が近くにあることを思い出し…… 
挨拶と様子見を兼ねて尋ねてみたのが、つい先ほどの話。 

思えば、彼があずさと退社した時はちょっとした事件になった。 
所属アイドル全員が泣いていたし、社長が本気で怒るという場面もはじめて見た。 
まだまだ上を目指して再デビューできるし、モデルに転向しても、三浦あずさは十分に 
トップを狙える素材だったし、彼女を世に出したことで売れっ子となったプロデューサーは、 
社長から次のプロデュースについて大いに期待されていた矢先の出来事だったから。 

そんな逸材を二人同時に失ったのだから、社長の落胆度合いはかなり激しかった。 
休む事無くプロデューサー業を頑張ってきた律子も、まだまだあの時の彼には及ばないと自覚している。 
三浦あずさの引退と結婚は、それはもう芸能界全体に大きすぎる衝撃を与えた。 

二人とも引退した後の発表なので、業界的に筋は通したことになるが…… 
ファンの感情がそんな事を理解できるはずもなく。 
三流芸能誌からは【あずさ泥棒】と、不名誉なあだ名をつけられ、 
一時は本気でストーカーっぽいファンに命を狙われかけた。 

人の噂も七十五日とはよく言ったものだが、話題が沈静化するためにはたっぷりその倍掛かった。 
さらにそれから一ヶ月……さっき彼女の家に入る前にざっと見たが、もうしつこい芸能記者も見当たらない。 
盗聴器や隠しカメラもずいぶん仕掛けられたようだが、765プロとプロデューサーだった旦那の努力で、 
幸いにも情報の流出は無く今に至っていた。 

都心から電車で1時間ほどの郊外に新居を構えた二人は、新たな生活をスタートさせた。 
プロデューサーである旦那は配達関係の仕事に就いて、気の利く性格も相まって 
会社からはずいぶんと重宝されているらしい。 
収入の面では芸能界時代に及ぶべくも無いが、二人で慎ましく生活するには十分だという。 



「もう……わたしたちが立ち入る場所じゃないのかも、ね……」 
プロデューサーもあずさも、完全に未来を見据えて新しい生活に馴染んでいた。 
それに対して、自分たちはいつも【プロデューサーやあずささんが戻ってきてくれたら】と、 
過去を振り返っていたかもしれない。 
「親離れ、というより……わたしも全然プロデューサー離れ出来てなかったのかもね」 

最初はなんだか頼りないし、プロデュース活動なんて満足にできるのかと疑った彼。 
しかし、一年後には【弟子になりたい】と思うまでの存在となった彼。 
未だに戻ってきて欲しいし、未熟な自分に色々と指導して欲しい。 
立ち寄った今も運がよければ会いたいと思っていたが、元気でいることが分かれば十分だった。 

『律子には律子の道がある』彼に言われた言葉を思い出した。 
自分は自分で彼に頼らず、彼に縛られずやっていかなくてはならない。 
「……ありがとうございました。お二人の幸せな姿を見たら、元気出ちゃいました」 
「いえいえ〜わたしも、久しぶりに律子さんと話せて、すごく楽しかったです〜♪ 
あのときの事、色々思い出しましたし……あ、お菓子もう無いですよね」 
「いや、これ以上は太るし、カンベンしてください……ん?」 

律子の携帯電話がけたたましく鳴り響き、話しながら彼女の表情が険しくなっていく。 
『はい、はい……はぁ!?ベンチがアホやから仕事がでけへんって、何寝ぼけたこと言ってんの!! 
あふぅじゃなくって!!ああもう、今から行くから待ってなさい!逃げるなー!!いいわね!!!』 
電話での話しっぷりを見ると、例の新人とやらに相当手を焼いているらしい。 

「もう……タイミングがいいんだか悪いんだか……今、担当している新人が困ってるらしくて、 
事務所に戻らなきゃいけないみたいです。名残惜しいけど、これで……」 
「うーん……仕方ありませんね〜では、また近くに着たら是非、寄ってくださいね〜」 

首を縦に振るが、多分二度と来ることは無いと律子は思った。 
「では、失礼しますね……旦那さんによろしく言っておいて下さい。 
あずささんが幸せなのが分かって嬉しかったです。きっと765プロの皆に話したら、喜びますよ」 
「あぅ……そ、そんな〜照れてしまいますよぅ……」 
「ふふふ……それじゃ、お子さんが産まれたら、写真でも送ってくださいね。それじゃ!」 

一礼して背中を向けると、振り返らずに歩き出す。 
まだ名残惜しさを感じる自分を叱咤し、律子は早足で765プロへの帰路を急いだ。 


■ 


「ああもうっ!!美希のおかげでスケジュールがまた大幅変更だわよ」 
「あ、あの〜律子さん……こっちの計算はもう終わりますし、手伝いましょうか……」 
「あ、大丈夫ですよ小鳥さん。ちょっと夕方の事を思い出してただけですから。 
それに、小鳥さんも仕事が増えたから連日大変でしょうし……先に上がってください」 

夜の765プロは、基本的にアイドル達が帰った後もしばらく電気が点いている。 
以前のオンボロビルでこそなくなったものの、まだまだ事務所の規模は小さく、 
仕事が増えてもまだまだこれからという覇気に満ちていた。 

しかし、プロデューサーは律子一人、事務員も小鳥一人では物理的な限界もある。 
プロデューサーの募集をかけるため、社長は人材発掘に出かけていることが多く、 
最近はほとんど彼女達が居残るのが日常と化していた。 
「律子さん……無理してないですか?現状ではプロデューサーは律子さんしかいないんですから……」 
「ん……全然平気とは言わないけど、仕事ってこういうモノですし」 

それに、あの人は毎日眠そうな目をしながら会社に泊まり続けてあれだけの仕事をしたのだ。 
未だにプロデューサーの残した功績は多く、ふとした事で意識してしまう。 
自分は自分の道が……と言っても、あの人に追いつくには頑張るしかないんだと言い聞かせ、 
再びPCに向かって仕事に打ち込もうとした。 

「あ……それじゃ、帰る前に珈琲、淹れてもらっていいですか?小鳥さんの珈琲って、 
自分でもお店でも出せない美味しさがあるんですよね……あれを飲めば、仕事に集中できるし」 
「ふふ、嬉しいこと言ってくれますね♪よし!おねーさん頑張っちゃいますよ!! 
奮発してジャマイカ産のブルマンでいってみましょうー!!」 

社長も絶賛する小鳥の特性珈琲を淹れてもらい、こった肩をほぐしながら休憩すると、 
リラックスしたためか仕事以外の今日の出来事が脳裏に蘇ってきた。 
かつての同僚であるあずささんと結婚した、昔のプロデューサー。 
超がつくほどの売れっ子であるにも関わらず、あっさりとその職を退いた人。 
あずさ本人の笑顔から考えるに、優しくて仕事も出来る理想の旦那となっているのだろう。 

「わたし自身の道、かぁ……ただ漠然と売れっ子Pを目指すってわけじゃないのよね」 
今だから考える、プロデューサーのやりかた自体ではなく、【何故】そのやり方にしたか。 
そんな事を考えるにしたがって、物事は根本へと向かっていく。 
「結局、謎は尽きないままよね……あー!やめやめ、今はスケジューリングしなきゃ!! 
とりあえずプロデューサーのことを考えるのは保留して、来週の仕事!!」 

例の企画をチェックするため、律子はカバンから昼に工場長から預かった例のものを取り出そうとして…… 

「あれ?」 

数分間カバンと睨めっこして、最後はすべてひっくり返しながら探すも見つからない。 
原因は、多分あれだ。 
「うっわぁ……電話に慌てて出てきちゃったから、置き忘れたんだ!!私の間抜けー!!」 

もう二度と行かないと決心しながら、あまりに馬鹿馬鹿しいミスをしたと一人、事務所で嘆く。 
今日、機械をテストしながら明日あたり事務所にカメラを仕掛けて春香か美希あたりを 
ドッキリにかけてみようかと思っていたのに、これでは計画が台無しだ。 

「うーん……明日朝イチであずささんの家に戻るかなぁ……気まずいけど仕事だし、 
期限は1週間だからまだ、何とかなるよね……ああん、もうほんとに私のお馬鹿ー!!」 
ここにあるのはモニターのみで、あの小型カメラはスイッチを入れないと役に立たない。 
機械が苦手なあずさがあれをいじるとも思えないし、もう明日に備えて帰ろうかと思ったが…… 

「……あずささん、スイッチがあったら押しちゃう人なのよね……まさかとは思うけど」 
ダメモトで律子はモニターのスイッチを入れてみた。 
すると、反応があり先程お茶をご馳走になった元・プロデューサー宅の台所が映っている。 

「映ってるし!?」 
そういえば、あのカメラをあずささんに見せたとき、不思議そうに色々触っていたが、 
多分あの時スイッチを押していたのだろうと推測できる。 
あとは忘れてそのまま……といった風に考えると彼女らしい。 
誰もいない事務所に突っ込みをいれながら、律子は映像と音声のチェックをはじめた。 
世界一の性能を自負するだけあって、クリアな映像と音声は大したものだが…… 
「たまごさん〜たまごさん〜……まぜまぜしましょ〜♪」 

15年も前に一部の人の間で流行った【たまごさんのうた】を口ずさみながら、 
食事の準備をするあずさの姿があった。 
「……また、思いっきり古い曲を歌ってるわね」 
画面に突っ込みながらも、新婚家庭独特の幸せ一杯な空気に頬が緩む。 
鼻歌と同時にキッチンに向かう姿は、アイドル以上に似合っていたから。 

「いいなぁ……あずささん。すごく幸せそう……」 
珈琲を含み、香りを楽しみながらあずさの笑顔に癒される。 
しかし、やってる事は盗撮以外の何物でもない為、明日にでも連絡するとして 
さっさとモニターのスイッチを切ろうと思ったその時、 

「〜♪」 
時計を確認し、一層嬉しそうな顔をしたあずさが、エプロンを外して服を脱ぎ始めた。 


「……何するワケよ!?料理が終わってないのに着替える事はないはずだし……」 
スイッチを切るタイミングを逸してしまい、もう興味のみでモニターを見つめる律子だが、 
半分謎の行動に驚き、もう半分は引退したにもかかわらず破壊力抜群のボディラインに驚く。 
上品なレースをあしらった下着姿の美しさは現役の時と変わっておらず、 
かつ、愛する人を見つけた事により活発に促される女性ホルモンが、 
現役時以上の色気を伴って、見る者を虜にするようだった。 

「わたしも、体型を維持するためにスポーツクラブとか通ってるのになぁ……」 
圧倒的な大差で、この人には適わないと思わせるほどのセクシーっぷり。 
しかも、愛する人までいるのだから勝負のリングに上がる前に負けているようなものだ。 

そのチャンピオンはといえば、手を止める事無くブラを脱ぎ始め…… 
「92…………いや、93あるかも……って、まだ育つんかい!?」 

明らかに現役時以上に大きくなった、三浦あずさ(旧姓)最大の武器であるその胸。 
相変わらず大きくて張りがあり、乳首の形さえ憧れるほどに美しい。 
本当に運動が苦手なのかと思えるほどに身体は引き締まっていて、 
主婦なんてしなくても、モデルでかなりの額を稼げるんじゃないかとさえ思わせる。 
見方によっては宝の持ち腐れと言えるが、本人達が幸せなら周りがとやかく言う事ではない。 

大体、傍から見れば何が楽しくてかつての同僚のストリップショーを見なければならないのだか。 
彼女がどういうつもりか知らないが、いくらなんでも家の中とはいえ無防備すぎる。 
注意の意味を込めて、そ知らぬ顔で電話でもしてみようかと思ったが、 
あまりに楽しそうな顔までこの高性能カメラがチェックしてくれるのでそれも憚られた。 

律子が躊躇しているうちに、謎の鼻歌と謎の踊りを交え、あずさはショーツを脱いでお尻を晒す。 
胸より小さめなお尻はスタイル抜群の証であり、結婚しても全体的にまったく翳りが見えない。 
「くぅ……羨ましいわねぇ全く……ここまで来ると嫌味なまでにスゴいわね……」 
イライラすると、言動に配慮が無くなるのは律子のアイドル時代からの癖だった。 

死者に鞭打つように完璧な裸体を見せ付けられ、打ちひしがれている律子が見たのは、 
全裸の状態でふたたびエプロンをまとう、かつての同僚の姿だった。 
察しのいい彼女は、この一連の行動を見ただけでこれから何が起こるかが想像できた。 

もう、やめよう。 
さすがにこれ以上は犯罪だし、見ている自分が嫌になる。 
そう思ってモニターのスイッチに再び手を伸ばす律子だが、 
絶妙なタイミングで呼び鈴が鳴り響き、随分会っていないあの人が帰宅したことを告げている。 
あずさの足音が遠のいていく様子は、聞くだけで幸せだと分かってしまう。 
きっと、呼び鈴を押すタイミングで旦那さんだと確信しているのだろう。 

しかし、律子はスイッチに手を掛けながら固まっていた。 

「いや、今日も疲れたよ……でも、充実した一日だった」 
会いたくてたまらなかった、あの人の声が聞こえてきたのだから。 



■ 

一旦間をあけてふたたびカメラの前に現れたのは、先程裸エプロンに着替えたあずさと、 
スーツから配達会社のスタッフジャンパーになりながらも、あまり雰囲気の変わらない、 
元・765プロの売れっ子プロデューサーその人だった。 

「プロデューサー……」 
その姿に懐かしいものがこみ上げて、オフィスで一人感動する律子。 
だが、二人のやりとりはその感動を持続させてはくれなかった。 


「あなた……お風呂にします?それともお食事に……」 
「なんっじゃそりゃぁ!!?」 

大声を上げたのは、元・プロデューサーの旦那ではなく律子だった。 

「裸エプロンでカンペキ戦闘準備済ませておいてご飯かお風呂かって……!? 
これでプロデューサーが【あずささんがいいです】って言わなきゃどうする気ですか? 
大体、新婚ほやほやの新妻が裸エプロンで迎えてるのにリアクション薄いって!!」 

まるで裸の王様の1シーンであるように、上着とネクタイを脱がせてクローゼットに掛けるあずさ。 
昔から天然だったとは思うけど、これだけ行動が常識から外れていたらもう何が何だか分からない。 
「うん……まずはごはんがいい」 

『ちょっと待て放置かよ!!』 

気が付けば事務所中に響き渡る声で突っ込んでいた。 
この人の性癖はどうなっているんだろうか?もしも仮に、あずささんではなく自分と付き合っていたら…… 
どんなプレイを要求されるかと思うと背筋が寒くなる。 

「カメラの故障とか、逆ドッキリじゃないわよね……」 
あまりに予想外の展開に、疑心暗鬼になり周りを調べるが、別段あやしい所は無い。 

一通り危険な箇所を調べた後、再びモニターをチェックすると、裸エプロンで料理を再開する 
かつての同僚の形の良いお尻が鼻歌とともに揺れていた。 
右側のマイクからカサリと紙が擦れる音がするが、多分これはプロデューサーが新聞を広げているのだろう。 


『〜♪』 
元・アイドル三浦あずさの長所は、そのはちきれんばかりの肉体が誇るビジュアルだけでは無い。 
実はボーカル力も千早に劣らず、ただの鼻歌でさえ聞くものをうっとりさせる力は健在だった。 
しかも、綺麗に揺れるお尻の肉に加え、横からははみ出さんばかりに主張する巨乳は女性でも目が行ってしまう。 
セクシーアイドルとして、あずさ共に頑張った律子だが、 
色気という点ではどうしても適わなかった苦い思い出が蘇る。 

数値上、身長から換算するカップの大きさと、体重とのバランス、そしてお尻の小ささも手伝ってのダンス力。 
ボーカル、トーク力などを含め総合的に判断すれば、実はあずさも美希も適わない万能ユニット。 
それが律子のちょっとした自慢であり、現役時代誰にも譲りたくないと思っていた部分であった。 
「でも……数値じゃないのよ。悲しいけどこれ(芸能界)って、戦争(サバイバル)なのよね……」 
何処かのアニメでは死にフラグとも取れる発言と共に、律子は現役時代思い知らされた事実を脳裏で反芻していた。 

アイドルに大事な要素、【華があるか?】 
キャラクターの作りこみとか、芸能界における立ち位置とか、世間的に色々言われているが、 
要はその一点に尽きた。 
そして、その要素だけはどんなにダンスやボーカルを鍛えたところでどうにもならないものだった。 
その証拠に、今手を焼いている担当アイドル、星井美希も能力的に未熟ながら、 
個性のカタマリと言っても過言ではないキャラクター性を持っていたから。 

「それにしても……ロングヘアでお尻の割れ目あたりが隠れてるから…… 
ん……なかなか見えそうで見えない……チラリズムってヤツかな……くっ、天然って恐ろしい」 
元々男性的と言われる理論的思考をメインにする律子は、時々だが男の気持ちに妙な理解力を示す。 
彼女の言う事はズバリ的を射ており、ダイナマイトバディを柔らかいボーカルと共に、 
チラリチラリと見せ付けられては、下半身が反応しない男の方がどうかしている。 

案の定、あずさの鼻歌一曲が歌い終わらないうちに元・プロデューサーは席を立ち、 
カメラからあずさの尻を隠す角度で彼女に後ろから抱きついた。 



「あっ……あなた……ま、まだ準備が……んっ、やぁんっ……」 
「ごめん、もう限界……お尻だけじゃ足りないよ……あずささんの綺麗な胸、見たい……」 
「ひゃっ……あ、あうっ……横から、手が……んあうっ!?…ち、乳首恥ずかしいっ」 

だったら最初から突撃しておけよ。 
だいたい新妻が裸エプロンで出迎えた時点で旦那としてする事決まってんじゃないの!? 
さすがに声には出さずにモニターに向かってプロデューサーへの文句を念じている律子。 
思い返せば彼は現役時代も押しが弱いくせに、拘るところは絶対に譲らなかった。 
そんな性格が、あの変態性癖の一端を担っているのかと思えば納得できるが、 
もしも自分が新妻だったら、『食事』とか言った時点で実家に帰っている。 

この辺はさすがにあずさ視点で考えるが、なにぶん事情を聞いてないので、 
その裸エプロンをあずさが仕掛けたとも考えられる。 
営業的思考は読めても、ラブラブな夫婦(しかも片方は超天然)の思考はさっぱり読めない。 
「普通に考えたら、裸エプロンで出迎える新妻って、思いっきり引くわよねぇ…… 
なのに、慌てずに応えてしかもそれが、『ごはん』ですって……何なのこの男はっ!!」 

『……でも、本当にしてくれるなんて思わなかったよ…… 
確かに【裸エプロンで出迎えて、そのまま料理を作ってくれたら俺、燃えちゃうよ】とは言ったけど』 
『うふふっ……でも、けっこう恥ずかしかったんですよ……途中で止めてくれて、かえって良かった…… 
だって、あなたにずっとお尻、見られてるって分かりますから…大きいから、ちょっとイヤなんですよ、本当は』 


「お前が犯人かー!!!」 


ダンッ!!と大きな音を立てて、ノートパソコンや書類一式が机から浮いた。 
律子がツッコミながら拳を机に叩きつけた音だった。 
「こ……このバカップル共……いや、馬鹿夫婦……っ」 
公共の場ならいざ知らず、しっかり自宅の、しかも夜に愛し合っているのだから、 
文句を言われる筋合いではないのだが……何故か律子の勘に触ったらしい。 

「大丈夫、胸と対比すれば十分小さくて可愛いお尻だよ…… 
あと、俺のためにここまでしてくれて……嬉しいよ、あずささん」 
「あんっ……だ、だって……何時頃か、これは男の夢なんだって仰ったから……」 
「うん、夢だよ!特にあずささんみたいな人がしてくれるのは、男全体の夢と言ってもいい!! 
その、はみ出しそうな胸も、丸見えの引き締まったお尻も……俺が自由にしていいなんて……」 


「結婚しても、【さん】付けなんだ……」 
床を蹴るなどして一通り暴れた後、冷静さを取り戻した律子は、二人の甘い会話を聴いていた。 
確かにプロデューサーよりは年上だが、旦那になっても関係は変わっていないらしい。 
あの二人らしいといえばらしいのだが。 

傍から見れば壮大な前振りが終わったらしく、唇にしたキスから、プロデューサーの舌はあずさの 
首筋へと降りて行き、片手はエプロンをずらして右の乳房を包み込むように揉みしだいている。 
彼の愛撫に敏感に反応しながら、あずさも負けじと舌でプロデューサーの耳を舐り、 
手はズボンの上から股間を擦っている。 
先程の露出プレイが利いたのか、すでに準備万端なほど、彼のものは硬くそそり立っていた。 

「……っ」 
彼らのあまりに特殊なシチュエーションのおかげですっかりペースを乱されたが、 
一時期本気でプロデューサーを意識した律子のこと。 
服の上からとはいえ、プロデューサーの大きくなった股間を見てドキリとする。 
女性から見ても十分魅力的で、しかも性的に乱れ始めたあずさの破壊力に、律子の動きが止まった。 
いくら同じ所属事務所の同僚とはいえ、エッチな事をしている場面なんて普通見るわけ無い。 

「あぁあっ……あなた、あなた……お願いです、下の方も……触ってくださぃ……」 
はじめて聞く、元・同僚の甘い声。 
もしもこんなビジュアルがドラマなどで公開されてれば、芸能界でも話題を独占できる。 
悲しいかな、プロデューサーとしてこれだけの素質を売り出したい、と律子は思う。 
アイドルから卒業し、しっかりプロデューサー業が板についている証拠であった。 
「そうだね……ごめん。でも……触るんじゃなくてこっちは、味わいたいかなぁ〜」 
「ひゃうっ!?……だ、ダメっ……舐めるんだったら、シャワーを……」 

イヤと言うほどの中睦まじさを見せ付けられながら律子が考えていたのは、 
丸いサングラスが特徴の、ギターを持つ替えうた歌手が唄っていた一文だった。 

『人が一生懸命仕事してるというのに、この世の何処かで○×△してるヤツがいるっ……』 

彼らは社会人として普通に仕事をし、普通に愛し合って(?)いるのだから、 
律子の文句は厳密に言いがかりでしかないのだが…… 
そんな文句をつけられているとも知らず、彼らの行為は次のステージへと切り替わっていった。 



スープを啜るような下品な音がモニターを通して伝わってくる。 
わざと音を立てて元・プロデューサーは恍惚とした表情であずさの股間を舐め回していた。 
「あずささん、感じてくれてるんだね……もうこんなにびちゃびちゃだよ」 
「あぁっ……だ、だって……あなたの舌、熱くて頭がしびれちゃいそうでっ……はぁんっ!?」 

顔見知り同士の性交を覗くというのはなんとも背徳感を煽られるが、 
それ以上にスイッチの入ったあずさは美しさもさることながら、律子が見たことも無いような 
エロティックな雰囲気を出しており、例え同性でも目が離せないほど凄かった。 

「あずささん、すごいわぁ……これなら、大抵の男は燃えちゃうかも……」 
そういえば、プロデューサーの顔も身体も、765プロ時代より痩せているような気がする。 
まさかとは思うが、毎日あずさに求められて……と思うと少しばかり気の毒かもしれない。 

「あ、あなた……舐められるだけじゃイヤです……わたしもっ……」 
「うわ……あ、あずささんっ…」 

あずさが元・プロデューサーの肩を掴んで地面に寝かせる。 
すると視点が固定されているカメラからは丁度フェードアウトし、律子からは見えなくなった。 
「ちょっとコラ!!盛り上がってきたのに見せないなんてアリ?ふざけんなっ!?」 

イライラすると思考が乱暴になるのは律子の悪い癖だが、状況が状況なので、 
この場合ただのスケベ親父にしか見えない。 
ファンの前では絶対に見せられない姿である事は間違いないだろう。 

「あ……んっ、あぁあっ!!」 
そして、そんな時に限ってあずさの声が大きくなるものだったりする。 
律子は全神経を耳に集中させ、音から何が起きているかを探ろうとするが…… 
「うっ……い、いいよっ……あずささん、俺もう……」 
「うるさいっ!!」 

ヘンなタイミングでプロデューサーの気持ち良さそうな声に気を取られ、律子が切れる。 
「男優は声が大きすぎると嫌われるって相場が決まってるもんなのよー!! 
男ならテクニックで女優の声を出させてこそでしょうがっ!!アンタ仮にも元・売れっ子Pだろうがー!!」 
他人のプライベートな情事にそこまで口を出すのはどうかと思うのだが、 
現役時代、律子がプロデューサーに抱いていた複雑な気持ちを考えるとかなり同情の余地もある。 



「あなたのも……おねがい、わたしが……」 
「うおっ……あ、すごいっ……あったかいよ……舌も吸い付くようでっ……」 
「あ、あずささんっ!?まさか……プロデューサーの、アレを……」 

画が見えない状況で、必死に言葉と音を拾う律子が出した答えは、床にお互いが寝転び 
性器を舐めあっていると言う……アダルト作品などではよく見られる行為だが、 
一般人の夫婦がするのはどうなのだろう?さすがにそこまでは律子も調べてないので分からなかった。 
だが、今は冬でも無いしさっきお邪魔したときはダイニングを兼ねたキッチンの床は綺麗に磨かれていた。 
あの状態ならああいうプレイも可能だし、床がフローリングなので液体の処理も早いのかもしれない。 

「でも……前に話を聞いたときは、男の人は苦手だって聞いたのに、あんなに積極的に…… 
プロデューサー、この半年でいったいあずささんに何を仕込んだの? 
まさか、夜のレッスンをくりかえしくりかえし……で、半年でこのランクアップぶり…… 
って、アンタ何こんなトコで超敏腕っぷり発揮してんのよ!!そんな暇があったら、 
領収書を溜め込む癖を直せー!!この変態プロデューサー!!」 

もうすでにプロデューサーではないのだが、律子の怒りはそんな事に気付くはずも無く、 
事務所に誰もいないと言う事実も相まって、机をバンバン叩きながらの愚痴大会と化していた。 
「アンタがそんなんで事務所を辞めるから、しわ寄せが私に来てるんだってば!! 
辞めるなら辞めるで、有力な後輩の一人くらい紹介してから出てけー!!」 

「んあっ……あ、あなたぁ……そこ、弱いっ……からっ、指はダメ……」 
律子の怒りは文字通り届くはずもなく、二人の行為はますます盛り上がっている。 
プロデューサーに奉仕しているあずさだが、主導権はまだ旦那の方にあるらしく、 
彼女が発する声のほうが次第に大きくなっていく。 
「あぁっ……も、もう……それ以上されると……っ、やぁっ、あ、あ…ああぁああっ!!」 
そして、一際高い悲鳴が上がったと思うと、お互いの荒い息遣いが聞こえてきた。 

「くっ……なんて気持ち良さそうな声……腹立たしいけど、やるわねプロデューサー……」 
どうやら一度目の絶頂を迎えたことを悟り、律子も一息ついて残りの珈琲を飲み干す。 
まるで張りこむ刑事か芸能記者のように、全てを見逃すまいとモニターに集中するが、 
悲しきかな、していること自体はただの覗き行為でしかない。 
そんな事は分かっていても、止められるものでもなかった。 

「う……あうぅ…ご、ごめんなさいあなた……ごめんなさいぃ……」 
「ちょ……え?どうしたのあずささん!?ひょっとして、どこか痛かった?俺、ヘンなことしちゃいました?」 
「ち、違うんです、あなたは悪くありません……わたしが勝手に……先にいっちゃって」 
「そんなの、気にしてませんってば。あずささんが気持ちよくなってくれるの、嬉しいんですから。 
それに、あずささんが口とか胸でしてくれるのはすごくイイんだけど……やっぱり出すなら、 
あずささんのなかがいいかな……って思うし」 

「うぷ……」 
元・プロデューサー自身は本気なのだろうが、どうも律子の性格上、甘い言葉というのは苦手らしい。 
歯が浮くような台詞と言うのはドラマで聞いただけでも鳥肌が立つというのに、 
かつての同僚の、本気ピロートークとなれば拒絶反応が出てもおかしくない。 
かといって、招かれざる野次馬と言う立場は分かっている以上、何が出来るわけでもないのだが。 



「それと、もう一つはなんですか?」 
「え……?」 
何かを見透かされたように戸惑うあずさに向かって、プロデューサーは続けた。 
「あずささんが泣くなんて、きっともう一つくらいワケがあると思うんですよね…… 
ほら、どっちかが先にイクなんて、そう珍しくもないし。 
何か、思い出してそうな顔もしてたから……俺、あずささんが不安なら力になりたいし、 
話したくないことじゃなかったら、聞かせてほしいなぁ……」 

「う……あ、あなた、どうしてわかるんですか?まさか、超能力者……」 
「そんなわけないでしょう……あずささんだって、俺が仕事で凹んで帰ってきたりしたら、 
何かあったって絶対気付いてるでしょう?それと同じですよ」 
結婚しても変わらぬ天然っぷりに少し安心しながらも、【あずさの心配】には興味がある。 
別にゴシップ的な意味をゼロにしても、かつて同じ道を歩んだ仲間として彼女のことは心配だ。 

「うぅ……こんな時に話すものでも無いと思ったんですけど……実は今日、 
律子さんが遊びに来てくれたんです……お仕事で近くまで来たとかで」 
「律子が!?そりゃ懐かしいな……元気だった?徹夜続きで顔色悪くなかった?」 

突如として傍観者から関係者へと立場を替えられ、律子は食い入るように画面を覗き込む。 
プロデューサーが自分の事をどう思っているか。それが聞けるかもしれないのだから。 
「ええ……今、担当している子がすごく扱いが難しいとかで、苦労はしてるみたいです〜 
人手が足りなくて大変だって言ってたけど、やりがいも感じているようでした。 
あとは……え〜と、これはわたしの勘なんですけど、やっぱりあなたに会いたそうでした〜」 

「!?」 

6時間ほど前……二人の新居を尋ねる直前、意識して消そうとした心。 
それをズバリあずさに見抜かれ、愕然とする。 

「律子さんの中で、あなたは相当大きな存在なんですね……お仕事の話をする時にも、 
あなたならこうするんじゃないかな、とか、あなたならどうやってファンにアピールするか、とか…… 
考えている表情をしてるときには、ほとんどそんな感じでした…… 
あなたは、他の皆にも慕われていたし、社長も何度も引き止めていました…… 
だから、わたしは怖くなっちゃったんです……一緒になるときに覚悟はしていたはずなのに、 
もしかしたら、あなたが最高に輝く場所をわたしの幸せのために潰して……っ、うむぅ……」 

あずさが最後まで言い終わらないうちに、プロデューサーの唇が彼女の言葉を止めた。 
「ん……んちゅ……あ、あなた……?」 
「俺が最高に輝ける場所は、あずささんの隣です。それに、プロデュース業なら 
俺が100回挑んでも勝てない人がいます。だから俺は辞める気になったんです」 
「は、初耳です〜でも、あなたは当時トップランクのプロデューサーでは……」 
「ええ。でも、いずれは抜かれるのが分かってましたから」 
「むぅ…結婚したわたしが言うのもなんですけど〜そんな存在を分かってて辞めたんですか〜? 
あなたの後を継ぐ、律子さんに一言くらい教えてもいいのに、かわいそうですよ……」 
珍しく不機嫌な顔をするあずさだが、プロデューサーは悪そうな感じがまったく無い。 
「だって……それ、律子だもん。だから、会社の利益的にも問題ないでしょ」 


「はぁ!?」 

初耳だった。 
確かに世の中、【覇王】【魔王】の称号をはじめ、鬼のような実力を持つ 
プロデューサーたちが全国にひしめいているが、あの彼が【勝てない】と断言する存在。 
それが自分とは。 
もう、嘘でもドッキリでも何でもいいから、プロデューサーの話を最後まで聞きたい。 
全神経を耳と化してでも聞き逃すまいと、律子はもう一度気合を入れた。 



二人の女性が、彼の言葉の続きを待っていた。 

彼の現役時代をもってしても【勝てない】と言わしめたプロデューサー…… 
それが秋月律子その人だというのだから、驚かないはずが無い。 

「将来、同じアイドルをプロデュースしたとして俺が100回挑んでも勝てない相手…… 
それが、律子なんです。彼女は必ず、俺を越えるプロデューサーになりますよ。 
確かに俺がまだ残った方が765プロの業績成長率は上がるかもしれない。 
でも、それは最終的にベストの結果にはなりません。新人の頃、模索しながら探したものは 
自分の揺るぎない信念になります。律子は今頃、新人Pとしてまだまだ迷っているはずです。 
そして、俺がいたらついつい頼ってしまうと思うし、俺だって律子が失敗して泣くのは見たくないから、 
良くないと分かっててもアドバイスとかしちゃうでしょうね……」 
「それが、律子さんのためにはならない、ということでしょうか〜」 
「そうです。……だってあずささん、俺の新人時代とか覚えてるでしょう? 
社長って、具体的なアドバイス何一つくれなかったし」 

会話を盗み聞きながら、律子も大きく頷いた。 
流行情報を教えてくれたり、夜のランキング報告の時は頼もしいが、 
オーディション直前やアイドルとの挨拶には一切口を出さず、いつも笑って見守る社長。 
プロデューサーとなった現在は、時々その大らかさが愚痴にも繋がる時もある。 

「でも、それでいいんだと思います……物事の基本は、ゼロから1を起こせるかどうかなんです。 
具体的なアドバイスは確かにその場限りで使えますが、最終的に自分で作った1にはなりません。 
それが出来る人間は、どんなピンチにも強い……律子は、それが出来る人間です。 
そして、俺が生涯適わない部分を持ってるんですよ」 

ショックと同時に重要すぎる話が大量に流れ込んでくるため、情報の整理もままならない。 
今でも自分がプロデューサーより上だなんて思ったことも無いし、 
彼はどうあってもいずれは追いつきたい目標であるが、追い越すとなると話は別だ。 

「俺は、確かにプロデュースは仕事だし、そこそこの実績を残しました。 
しかしそれは、ある程度のパターンをなぞったのが上手く行っただけで、新しいことは 
何一つやってないんですよ。お客の期待に応えてはいましたけど。 
それに、どんなに凄くても俺は所詮ブースターでしかないんです。 
元々魅力のある女の子を、さらに輝かせるだけで…… 
自分から動いたり、なにかを仕掛ける能力は、実は無いんです……でも、律子にはそれがある。 
エンジンとブースター……両方の特性を持っている人間は、強いんですよ」 

一呼吸置いて、彼は続けた。 


「それに……ミーティングの時、律子は俺に言いました。いずれは自分の芸能事務所を立ち上げたいって。 
その時、はっきり分かったんです……俺は、そこまでの実行力が無い。 
元はと言えば、ただフラフラしていただけの俺を、社長が採用してくれただけで奇跡なんです。 
信じられますか?履歴書もなしで、偶然通りがかった俺を、面構えだけ見て採用するなんて……」 

「うふふ……いいじゃないですか?社長って、そういう人だから♪……それに、 
その直感のおかげでわたしはあなたと……」 
「まぁ、結果論で言うとそうなんですけどね。でも、仮に俺だったらぜったいやりません。 
っていうか、怖くて出来ませんよそんな事。 
……でも、律子は多分できる。彼女も社長と同じ分類の人間に、いずれなります。 
だから、今は一番辛い時期だろうけど、ここで上手く行けば彼女は化けますよ。 
アイドル時代をヘンに引きずったりもしない……ホンモノのスター誕生請負人に、ね」 

モニター越しに伝わる、彼の優しさ。 
カメラに顔が映らずとも、その言葉のトーンでどれだけ自分を買ってくれているかが律子には分かった。 
「何よ……なんなのよ、それ……わたしを残して、勝手に辞めたと思ってたのにっ……」 
いきなりの告白にもはや覗きの後ろめたさは消え、彼に対する想いが溢れてきた。 
765プロを辞めて半年が経つが、その間の新婚生活中も常に彼は765プロの人たちのことを考えていた。 
ある意味嬉しく、ある意味どうしようもなく腹が立った。 
「プロデューサーの期待に……全然応えられるレベルじゃないよね……そりゃそうよ、 
わたし、まだまだ全然甘かった……日々の忙しさにかまけて、彼の信頼に気付きもしないで」 

彼は自分のほうがいずれ上に行くと言うが、それは先の話であり、未知の領域でもあった。 
かつて弟子になりたいとまで思ったあの人の事を考え、拳を震わせる律子。 
そこに芽生えたのは、彼の後を任されたという責任感だった。 

「そして、俺にしかできなくて、俺自身の手でやりたい事も見つけました……」 
いつの間にか、69の姿勢から普通に向き合って床に座り込んでいる二人。 
あずさの身長は女性にしては高めなので、プロデューサーが僅かに大きいくらいだが、 
男性特有の広い背中が彼女を覆うように抱きしめた。 

「あ……あなた……」 
「あずささんを、幸せにする事です。俺自身の手で、あずささんと一緒に幸せになる事なんです…… 
これだけは、誰にも任せたくない。そして、俺が一番になりたい事なんです。 
だから俺、765プロを辞めても欠片も後悔してません。 
大好きな人と、ずっと一緒にいたいから……だから、もう律子や765プロの話は終わりです。 
今から、あずささんだけを愛したいと思うから」 



「……人間的には、生涯勝てない気がするわね……もう、眼鏡が濡れちゃうじゃないの」 
この人は、いつだって本気だ。そして、そこが765プロの皆が慕う、彼の最大の魅力なのだろう。 
愚直なまでに一途な二人を見た律子は、これだけ固い夫婦の絆が見られるならば、 
馬に蹴られて死んでも良いとさえ思っていた。 

「あなた……ぐすっ……わたし、やっぱり怖いくらいです……こんなに幸せでいいのかな…って」 
「いいんです!!俺も同じ気持ちだから……あずささんが、今すぐ欲しい」 
「ええ……わたしも、あなたの大きいの、なかに欲しいっ……今日は、わたしにさせてください」 

深いキスをしながら、あずさが体重をかけて元・プロデューサーを押し倒す。 
すでに戦闘態勢になっていた彼のソレを握り、自らの大事な部分の入り口に添え、 
国宝を扱うかのように、ゆっくりと自分のなかに沈めていった。 
「あ、あずささんっ……ヤバイよ、入れただけであったかくて、気持ちよくて…… 
しかもナマだから、俺あんまり持たないかも……」 
「うふふ〜♪なら、出しても抜かずにおっきくしちゃいます〜」 
「う、うおっ……おっ、おおぉっ……あずささん、ちょっと……」 
「あなたの声、もっと聞きたい……赤ちゃんも欲しいっ……大好きな人の子供、欲しい…… 
だから、わたしもたくさんエッチになりますね……あなた……愛してますよ」 
「おっ……おおっ、締まるっ……嬉しい……けど、ヤバイっ……」 

愛が溢れ、本気モードに入ったあずさの色気は、美希にも絶対に出せない方向性の強さを見せている。 
慈愛に満ちた母の様でもありながら、恋する乙女全開の色気と恥じらい。 
そして、赤みを帯びた身体全体から発する【女】として最高の身体。 
男なら誰もが昇天せずにはいられない、ある意味犯罪的な身体が、 
子種を搾り取るためにとかなり大胆に、愛する旦那の股間を包み込んで締め上げていた。 

「うっ……ど、どうしてっ……わたしまで、ヘンな気分に……」 
プロデューサーの感じる声を聞き、いつしか律子もその気になっている。 
彼女も多分に洩れず、彼を慕っていた女性の一人でもあったし、 
今現在、偶然とはいえあずさ以外は見たことが無いであろう、元・プロデューサーの男性器を見ている事。 
そして、コレを最後に彼を忘れて一人で頑張ろうという気分的な後押しもあった。 
誰もいない事務所で、一人そっとシャツのボタンを外し、ブラジャーの上から自分の胸を触ってみる。 

「ひゃうんっ……な、なんで……こんなに、感じてっ……」 
忙しさのためか、一人でするのもご無沙汰だったし、無論相手もいない。 
久しぶりに聞いた想い人の声も手伝って、律子は今までで最高に感じる自慰行為に没頭していた。 



「あずささんっ…凄い、凄いよ……俺、もう出ちゃうっ……」 
「だ、出してっ……出してくださいっ……あなたの熱いの……いくらでも、ください…… 
全部、奥で受け止めますから……濃くて、熱いの……いっぱい……」 
「お、おおおぉっ!!あずささん、ペース、早いっ……いつもと違う」 

発情している三人は、もはや何を言っても聞こえないほどに集中している。 
それぞれの立場で、それぞれの劣情がぶつかる初夏の夜。 
この奇妙な盗撮劇は、無論ただでは終わるわけが無かった。 

「やだ……どうしよう。軽く胸、触っただけで濡れちゃってる……」 
夜の事務所という、緊張感溢れる場所というのもあいまって、律子の感覚も普段以上に研ぎ澄まされていた。 
ブラジャーの中に指をいれ、乳首を軽くつまんだだけなのに、電流が全身に走ったように感じる。 
その原因となっている元・プロデューサー夫妻の行為はますます激しくなり、 
もはや彼は快楽に耐えるというより、いつ昇天させられるかを心待ちにするように、 
あずさの腰の動きにあわせて自らの股間を突き上げ、彼女を気持ちよくしようと動いていた。 

「あっ……あなたっ……きもち、いい……」 
「俺もだよ、あずささん。でも、気持ちよすぎてもう持たないから……出したい」 
「はい……はぁっ……あっ、あなたっ…いっぱい、わたしのなかに、ください……」 

あんまり早くイッたら、タイミングが悪いなぁ…… 
そんな事を考えながら、律子も二人の流れに乗ってテンションを上げていく。 
すでにブラをめくって乳首を弄りながら、空いたほうの手はボールペンを使って肉芽を刺激する。 
別に、この声が自分に向けてのものでなくたっていい。 
プロデューサーから巣立つためにも一度だけ、本気で彼にして欲しいと思ったが、 
常識的に考えてそんな事を言えるはずも無かった。 
ならば偶発的な事態ではあるが(加えて犯罪行為でもあるが)彼の声を聞きながらイきたい。 
そう思って、もう少し強めに肉芽を弄り、律子はさらに感度を上げていく。 

「はあぁっ……なに、これ……いつもより、全然、感じがっ……んっ、あぁっ……」 
仕事場という特殊な環境のためか、それともかつての想い人の声が影響しているのか。 
触りはじめて間もないのにショーツの中の肉芽は硬く尖り、快楽は留まるところを知らない。 
これがアダルトビデオなら、視聴者から怒りの声が上がりそうなほど速いペースだが、 
珍しく肉欲に没頭する律子にそんな事を気にする余裕も無かった。 

「くっ……あずささんっ、出る……出るっ!!」 
「あ、あなたのが……なかで、大きく……ふあっ、あっ……ああぁっ!!」 
「ぷ、プロデューサーったら、ちょっと早いわよ……あっ……で、でもっ…… 
タイミング的には丁度いいかもっ……わたしも、一緒にっ……!!」 

三者三様に、終着点に向けて上り詰める。 
夜とはいえまだ宵の口、ともすればお隣の家に聴こえているかもしれないが、 
そんな事は無視して夫婦揃って身体をぶつけ合い、嬌声は大きく家中に響いた。 

「あなたっ……好き……大好き、ですっ……あっ、あ……あああぁっ!?」 
「あずさ……あずさっ、俺も……愛してるよ……いつでも、誰よりも……くうっ!!」 
「プロデューサー……あっ、わたしっ……絶対、もっと……あなた以上に…… 
ふぁうっ……あ、ありがと……プロ……あぁっ!!ああぁっ!!」 

お互いの愛と、大きな目標。 
それぞれの決意が、絶頂と共に夜の闇に溶け込んでいった。 



■ 

「うぅ……わたしとした事が、仕事場でこんな……あぁもう、恥ずかしいっ!!」 
盗聴器のスイッチを切った律子は、改めて冷静になって自分のした事を振り返り、 
事務所で一人真っ赤になりながら後片付け(証拠隠滅とも言う)に入っていた。 
自分の想っていた何倍も、プロデューサーは思慮深い。 
あずさの幸せを願うと同時に、自分も彼の期待を裏切りたくないと切に思うし、 
遥かに高い目標を設定されたことに、大きなやり甲斐も肌でビリビリ感じている。 

「見ててね、プロデューサー……まずは、新人の美希にやる気を出してもらわなくっちゃね。 
今までは流行重視で彼女の希望を聞いてあげられなかったけど……うん、 
スケジュール組みなおせばもっとテンション上げつつ大きくビジュアルで売る手があるかも。 
よし!!もう一杯お茶入れて、一仕事するわよ!!」 

多分、いつもの律子を知るものがいれば、あまりのテンションの高さに誰もが引いていただろう。 
自慰行為の余韻で熱の残る体を器用に踊らせ、抜群のノリの良さで事務室の扉を開けると…… 

「きゃっ……あ、ご、ごめんなさいっ……あの、決して覗くつもりは……」 
「……あら、小鳥さん……って、ええぇぇっ!!」 

高価そうな箱包みを抱えて廊下に尻餅をつく、音無小鳥の姿があった。 

「う、うそ……どうして……」 
「あ、あうあぅ……ほんっとにごめんね!!珈琲だけじゃちょっと寂しいし、律子さん最近頑張ってるから、 
春香ちゃんオススメのケーキ屋さんで差し入れを買ってきて……」 
「……入るに入れない雰囲気だった、と……」 
察しの良すぎるのもどうかと思うが、彼女の性格上仕方が無い事だった。 
現行犯逮捕されたとは思えないほど冷静に、律子自身が聞き役となって話は進む。 

「あー……あのっ、気にする事無いわよ!!わたしも社長がいない時とか、たまにしてるし!! 
それに、誰にも言わないから!!ね、まずは落ち着いて、ね!! 
何だったら、わたしすぐに出て行くから、満足してないようなら、そのまま続きを……」 
「そうですね……お腹もすいたし、ケーキ貰ったら続きを……って、出来るわけないでしょー!!」 

こんな時でもノリツッコミを忘れないという芸人根性に、自分でも呆れながら、乾いた音が事務所に響く。 
「あうっ!?り、律子さん、今本気でハリセンでぶった……けっこう痛い……」 

「うふふ……小鳥さん、戸締り任せました……一日限定で家出しますから……ついてこないでね」 
振り返るその顔は、反論を一切許さないほどの迫力に満ちていた。 
それでも裏を返せば明日からきっちり仕事すると言うのだから、彼女もこんな状況下で成長している証と言えよう。 
「……」 
あまりの迫力に、小鳥は無言でキツツキのように何度も首を縦に振り、肯定の意を示した。 
ソレを確認した律子が、まずはゆっくり……そして、小鳥が目で追えない距離に行くと、 
全力で新社屋の長い廊下をダッシュで駆け抜けていった。 

「っ……もう!全部アイツが悪いー!!やっぱりあんたなんか一生頼りないダメPよ、もう決めた!!」 
八つ当たりとしか取れない言葉を吐きながら、将来を託された新人プロデューサーが、 
夜の街へと消えていった…… 



■ 


盆を過ぎ、うだるような日差しもあと少しとなった真夏のある日。 
世間は夏休みの後半となり、アイドル達もコンサートやライブに大忙しの週明け、 
765プロに一通のハガキが届いた。 

「今日は……ビジュアルの天下が終わってボーカルと見せかけて……ダンス!!」 
「素晴らしい!!見事正解だよ……これはいよいよ、まぐれと呼べない域に入ってきたかな?」 

「おはようございます!ニュースですよ律子さんっ……あれ?流行情報の確認……ですか?」 
「おはようございます、小鳥さん。んーっと、そうなんだけど、ちょっとね」 
「おはよう、小鳥君。確認の前に、律子君なりの予想を聞いていたのだが……ズバリ、当たりだよ。 
最近かなりの確率で流行を当てているが……これは、彼にも出来なかった芸当だね。 
確かな技術になれば、オーディションの際に大きな武器になる。今後も精進したまえ。 
で……キミのニュースとは何かね?その様子からすると、良い知らせのようだが」 

話を振られて先程の勢いを取り戻し、急速にテンションを上げる小鳥。 
「あ、あのですね……わが社の利益とは直接関係無いんですけど……残暑お見舞いのハガキが来まして、 
あずさちゃんからですよ♪懐かしいですよねー、しかもほら!!」 

「ほ、ほほう……うむ、コレは目出度い!!わが社を離れた存在とはいえ嬉しくないワケが無い!! 
小鳥君、皆を集めてひとつ盛り上がろうではないか。このお金でケーキでも買ってきなさい」 
「はーい♪ちょっとみんなー!!集合ー、あ、春香ちゃん……この前言ってた美味しいお店なんだけど…」 
ダッシュで社長室を出て行く小鳥を見守りながら、社長から渡されたハガキを見る。 

「あ……あ、あぁ……」 
そして、真っ赤になる。 
文面の事実と、ソコから逆算する製造年月日があの日だと気付いてしまったから。 

「どうした律子君?」 
「あ、あ……あはは……し、失礼しました!!なんか、いきなりの報せでびっくりしちゃって。 
そっか……あずささんが、ね……」 
「うむ。どうだね?もし女の子なら、12年もすればキミの手で……」 
「やだなぁ、もう!!社長ったら、あんまり先の話をすると、鬼が笑いますよ!!」 
話を続けながら、どうしても【あの行為で】授かった命と思い、耳まで赤くなる。 
時が経てば忘れるかもしれないが、少なくとも今、この話題は勘弁して欲しかった。 

「鬼が笑って、実害を被ったという話は聞いた事が無い。だから良いではないか」 
「それよりも、今は夏休み後半のアイドル活動です!!浮かれるのはここまで!!」 



持ち前の仕切り能力で、相手が社長でもピシリとこの場を収める。 
一息ついて事務所の応接室を覗いてみると、小鳥の召集で集められたアイドル全員が、 
ケーキと紙コップを手に輝かしい笑顔で待っていた。 

「律子さん、遅いですよぉ……この天海春香オススメのすっごい美味しいの、買ってきたんだからー」 
「ほらほら、座って律子!!今はボク達の頼れるプロデューサーなんだからさ」 
「名実共に、2代目というところでしょうかね……実際によくやってくれていますし、 
律子がいないとはじまりませんよ」 
「あふぅ……なんかよくわからないけど、おめでたいらしいのー。だから早くはじめよー、 
ケーキ食べようよー」 

直接の面識を持たない美希以外が、今日の報告を心底嬉しそうに祝っていた。 
やよい、亜美真美などはこの嬉しさを早くぶつけたくて、うずうずしている様子が伺える。 

「……ふふ、はーい、じゃあみんな静かにー。乾杯の音頭は社長にお願いするとして、 
わたしから一つ、提案……ていうか、お願いがあるんだけど、聞いてくれるかな?」 
はがきでの報告を聞いた瞬間、彼女の脳で逆算した日付け。 
無論、厳密に十月十日とはいえないものの、スケジュール的に無理とも思えない。 

「基本的に、みんなには自分のために頑張って欲しいんだけど……わたしも含めて、 
誰かに捧げる勝利って……カッコいいと想わない? 
ガラじゃないんだけどさ……あずささんの運命の日に、重なりそうな気がするのよ。 
だから、全力で勝ちにいきたいの。皆で取ろうよ……」 

「律子さん……まさか、それって?」 
「うん。特別中の特別オーディションの一つ、【春祭りアイドルSP】を!!」 

その一言で、皆の瞳に炎が宿った。 
彼のことを良く知らない美希も、皆のテンションに触発されて盛り上がっている。 

(……ほんとにもう。事務所を辞めてからもブーストくれるなんて、反則よ) 
律子の提案で皆のテンションはさらに上がり、もうすでに光を放ちそうな勢いだ。 

「では……ウオッホン!!二人の間に産まれる、新たな生命を祝して……そして、 
わが765プロの目標、春の祭典制覇に向けて……」 

強い夏の日差し以上に輝く、765プロの応接室。 
(この笑顔は……プロデューサーの遺産。そして、わたしが……) 
受け継ぐのは実績でも業績でもない。皆のこの、はちきれんばかりの笑顔なんだろう。 
今も幸せに暮らしているであろう彼に向けて、律子とスタッフ、そしてアイドル全員が叫んだ。 

『乾杯ー!!』 



■HAPPY END 



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