無題

作:名無し

身体が熱かった。広く清潔なベッドの上で何度も何度も寝返りを打った。 
ネグリジェの脇辺りが汗で濡れているのが分かる。生々しい半端な温さが不快だった。 
目覚ましとして枕元に置いた、人魚のキーホルダーが付いた携帯電話で時刻を確認した。 
11時45分――床に就いたのが10時きっかりに対して、まだ2時間しか経っていなかった。 
早く朝が訪れてくれれば良いなと思ったが、こういう時ほど秒の刻み具合が非常に遅い。それがとても恨めしかった。 
身体を覆っていたシーツを荒々しく取り払い、ベッドを降りて部屋の備え付けのスリッパを履き、街の夜景を一望できる窓ガラスの前に立った。 
窓の向こうでは建物のネオンが競い合っているように点滅し、上空には無数の星の一つ一つが円らな銀色の光を纏っていた。 
カーテンを端に寄せ、両手で前髪を横へと掻き分け、露になったおでこをガラスにつけた。 
ひんやりとした冷たい感触が沸騰していた身体の温度を奪っていく。それが心地良く感じた。 


新たなプロモーションビデオを製作する都合で、私は、とある都内のビジネスホテルに宿泊している。 
撮影期間が3日で今日がその最終日だった。撮影の方は、滞りなく順調に進んだ。 
これまでにも数々の経験を積んできたおかげか、デビュー当時と比べて「自分」を演じたり肌を露出することに躊躇うことも極端に減った。 
とは言えども、やはり「他人に注目を浴びる」ことに対して未だに慣れが来ない。 
私がどういう風に見られてるのか。私を頭の中で浮かべて何を妄想するのか。 
考える度に食事が喉に通らないこともあれば、吐き気を催すこともあった。 
そんな数々の重圧感を乗り越えることが出来たのは、彼の姿がいつも傍にあったからだ。 
励まして欲しいとき、褒めて欲しいとき、叱って欲しいとき、望むことは何でも現実で顕してくれた。 
私はどちらかというと――自分で言うのも可笑しな話だけれど――遠慮がちな性格であると思う。 
だから今回ホテルの予約の取り付けにおいても、値が張りそうなところにして頂かなくても大丈夫、と予めに断った。 
しかし彼は、わざわざ上層階の景色が一番に綺麗そうな部屋を設けてくれた。 

事務所のデスクでブラック・コーヒーを飲んでいる姿、レッスンでの真剣な表情、屈託のない笑み。 
日を重ねるごとに、私はそんな彼に惹かれていった。好きになった。愛しくなってしまった。 


ある日のレッスン帰りに、私は事務所のオフィスへ忘れ物を取りに立ち寄った。 
そこでは一人の同僚である女の子が彼と楽しそうに話していた。 
彼は誰であろうと優しく平等に接する。だからこそ事務所内でも広く好感を持たれていた。 
その事を私は十分に承知していたはずなのに、その光景を目の当たりにした時、何故か無性に腹が立った。 
無意識の内に二つの両拳は硬く作られ、痕に残るほど爪を肉に食い込ませていた。 
なにか不愉快なものが、体の底から込み上げてくる感じがあった。 
その夜は正体不明の苦悩に苛まされて眠る事が出来ず、頭を切り替えようとして何度も毛布を深く被った。 

私は彼の中で特別になりたいと思っていた。 
だから皆とイコールで結ばれるのは堪えられなかった。それは単なる自己中心的なふざけた考えかもしれない。 
そしてそれは、私の心の中で次第に変化し、やがて私とは異なった自我を持ったもう一人の「わたし」を形成していった。 


「わたし」は囁き掛ける。 
「お前はいつまで足を止めているつもりだ。 
進展を期待しているのに、なぜ何らかのモーションを起こさない」 

私は反論した。 
「それは違うわ。私は今がとても幸せであり、とても満足している。 
だから、それ以上の関係なんて望んではいないの」 

それに対してまた反論。 
「いいや、嘘だね。わたしはお前のことが手に取るように分かる。 
建前はそう言っているが、本当は彼を独り占めしたくて堪らないのだろう?」 

――違う。 

更に「わたし」は続けた。 
「だがお前は素直にそれを表現をすることが出来ない。 
汚くて穢れた心を持ってはいけない、純粋でありたい、そうでなければ彼は私を見てくれない。 
勘違いするな。そんなもの、所詮はキレイゴトだ 
お前の心は、すでに汚い穢れで染め上げられているのだから」 

――違う……違う……! 

「誰に愛されたい? 誰に欲されたい? 誰に抱かれたい?」 

――私はそんな事を、考えてなんか……。 


心臓が内側から蹴破るような鼓動の激しさで、我に返った。背中が汗でびっしょりと濡れていた。 
荒々しい息遣いで、唇の右端には涎が伝っている。それを右手の親指で拭い、人差し指の側面にこすり消した。 
私はベッドの上に置き去りにした携帯電話を手に取り、メール送信の画面を開いた。 
そして『起きてますか』と、一言だけ綴ったものを送った。 
もう既に寝に入ってしまったという可能性が頭をよぎったが、何故だか分からない不明な自信があった。 
それから少しの間、画面を見つめていた。すると鋭いバイブレーションと共にメール受信時のマークが点滅し出した――ほらきた。 

『起きてるけど……どうした』 
『ちょっと眠れなくて……。もう遅いですが、そちらの部屋に行っても構いませんか?』 

直接的な表現だっただろうかと直後に後悔したが、大丈夫――断る理由などない。 

『わかった。鍵は開けておくよ』案の定、すんなりと承諾してくれた。 

再び携帯電話をベッドの上へと放り投げ、木材質の椅子の背に掛けてあったハンドタオルで首と胸辺りを軽く拭いた。 
ネグリジェが水分を大分吸収していたせいか、タオルはあまり湿らなかった。 
手櫛であちこちに乱れ散っている髪を適当に梳き、次にベッド横にある引き出しの上に置いておいたピンクのビニールポーチからリップクリームを取り出し、そっと唇に塗った。 
それをまたポーチ内へと戻し、玄関で白いサンダルに履き替え、自分の部屋を後にした。 

目的地はここから一つ下の階にある。私はエレベーター横の階段を下りていった。 
流石に夜遅いためか通路は静まり返っており、人の気配が全く感じられなかった。それが何となく私を緊張させた。 
彼の部屋の前に着くと、まず私は気持ちを落ち着けるために深呼吸し、そして右手でドアを二度ほど叩いた。乾いた音が辺りに響き渡った。 
間もなくしてドアの向こうから彼が現れた。着古されて色褪せた青のパジャマを着ている。私は小さくお辞儀をした。 


心臓が内側から蹴破るような鼓動の激しさで、我に返った。背中が汗でびっしょりと濡れていた。 
荒々しい息遣いで、唇の右端には涎が伝っている。それを右手の親指で拭い、人差し指の側面にこすり消した。 
私はベッドの上に置き去りにした携帯電話を手に取り、メール送信の画面を開いた。 
そして『起きてますか』と、一言だけ綴ったものを送った。 
もう既に寝に入ってしまったという可能性が頭をよぎったが、何故だか分からない不明な自信があった。 
それから少しの間、画面を見つめていた。すると鋭いバイブレーションと共にメール受信時のマークが点滅し出した――ほらきた。 

『起きてるけど……どうした』 
『ちょっと眠れなくて……。もう遅いですが、そちらの部屋に行っても構いませんか?』 

直接的な表現だっただろうかと直後に後悔したが、大丈夫――断る理由などない。 

『わかった。鍵は開けておくよ』案の定、すんなりと承諾してくれた。 

再び携帯電話をベッドの上へと放り投げ、木材質の椅子の背に掛けてあったハンドタオルで首と胸辺りを軽く拭いた。 
ネグリジェが水分を大分吸収していたせいか、タオルはあまり湿らなかった。 
手櫛であちこちに乱れ散っている髪を適当に梳き、次にベッド横にある引き出しの上に置いておいたピンクのビニールポーチからリップクリームを取り出し、そっと唇に塗った。 
それをまたポーチ内へと戻し、玄関で白いサンダルに履き替え、自分の部屋を後にした。 

目的地はここから一つ下の階にある。私はエレベーター横の階段を下りていった。 
流石に夜遅いためか通路は静まり返っており、人の気配が全く感じられなかった。それが何となく私を緊張させた。 
彼の部屋の前に着くと、まず私は気持ちを落ち着けるために深呼吸し、そして右手でドアを二度ほど叩いた。乾いた音が辺りに響き渡った。 
間もなくしてドアの向こうから彼が現れた。着古されて色褪せた青のパジャマを着ている。私は小さくお辞儀をした。 


「どうもすみません。いきなり押し掛けちゃって」 
「良いって。ちょうど暇を持て余してたところだしな」 

そう言うと彼は、私に背中を向けて部屋の中へと戻っていった。私は小さくお辞儀をし、靴を脱いで、後に続くように進入した。 
部屋内は彼が今日来ていたスーツが脱ぎっぱなしで空間の片隅に放置されている以外、綺麗に整頓されていた。 
彼がベッドに腰掛け、並ぶようにして私もとなりに座った。 
「急にどうしたんだい」と彼は訊ねてきた。 
「なかなか寝付けなくて」 
「眠れるように、ホットミルクでも作ってあげようか」 
「いや、結構ですよ。それよりも――」 
一呼吸おいて、彼の顔を見つめながら、私は続けた。「それよりも、私は貴方が欲しい」 
その言葉に不意を突かれた彼は、両眼は大きく開き、困惑している様子が伺えた。 
私はベッドから立ち上がり、おもむろに衣服を脱ぎ始めた。身に着けているのは下着だけとなった。 
彼は下唇を噛みながら、首を真横に捻り、私の姿から視線を逸らしていた。 
「見てください」 
「服を着るんだ」 
「私を、見てください」 
「何を馬鹿な事を、早く服を着――」 
言葉は続かなかった。私の唇で制止したからだ。 
私はそのまま彼に体重を掛けてベッドの上に背中から押し倒した。自然の流れで彼の胸に、私の身体を預けるような形になる。 
しばらく彼の瞳を見つめていた。一分、いや二分、あるいは十分ほどか、それぐらい時が経つスピードを長く感じさせた。 
彼はすこし目を泳がせた後、意を決したのか目の色を変え、私を見返してきた。 
そして強引に私の身体を反転させた。気が付くと視野は180°転換していて、私は天井を見ていた。 
今度は彼が私を求めてくる番だった。私はそれを待っていたかのように受け入れた。 
興奮で満ちた、長い夜が始まろうとしていた。 



遥か上空に浮かぶ月が、妖しげな赤い光を放っていた。 
それはカーテンの隙間を縫って侵入し、床に細い線を描いた。 
その線は徐々に伸びていき、私を照らした。 
まるで舞台上で役者が演じている時に浴びせるスポットライトのようだった。 

彼の上で、私は踊り続けた。夢中になって踊り続けた。 



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