無題

作:名無し

 ラストコンサートの帰り道。俺は春香を家まで送り届けた。 
 そして立ち去ろうとしたその瞬間。全身から力が抜け、俺はひざをついた。 
 振り返ると、春香が眼前にいた。怒りや悲しみ、さまざまな感情を複雑に混じり合わせた顔で。 
 俺にはその中で、どれが春香にとって一番強い思いなのか、分からなかった。 

 気がつくと、見たことの無い天井があった。 
 いや、それは間違いだった。見たことはあったのだ。ここは、かつて訪ねた春香の部屋なのだから。 
 すぐに分からなかったのは、暗闇だったからだ。 
「プロデューサー」 
 その声の主の正体はすぐに分かった。 
「春香・・!」 
 顔をそちらに向けると、薄暗くぼんやりとした視界の中に、春香の顔があった。そしてその下は・・何も着ていなかった。 
「ふふっ・・」 
 聞いたこともないような、おだやかで怪しい笑い声。その声を聞くと、先ほど自分が何をされたかが一気にフラッシュバックした。 
俺は慌てて立ちあがろうとするが、身体はまったく動かない。金縛りのように。 
 さらに驚くべきことに、俺も春香同様、何も着ていなかった。 
「帰り道で一緒に飲んだジュース。覚えてます?あの中に薬を入れておいたんです。
父親が医者のあの娘に頼んで、ね。まだしばらくは動けませんよ」 
「春香、どういう事なんだ。これは!」 
「・・・・・」 
 俺の問いかけに、春香は無言だった。無言のまま、俺の首筋に唇をよせ、舌を這わせた。 
「っ・・!」 
 その刺激に、思わず声が出そうになった。 


 そんな俺を満足げに見下ろしながら、春香の唇は少しずつ下へ下へとさがっていき、胸を経由して、ついに下腹部へと到達した。 
「これが、プロデューサーさんの・・」 
 恍惚とした顔で俺のモノを舐める春香に、俺はゾクゾクっとした快感を覚えた。それは、感じてはいけない快感だった。 
「んっ・・」 
 冷えた指先と、とろけるような熱い舌。この二つで弄られると、俺のそれはまるで中学生のように、簡単に固くなった。 
こんな状況でもしっかりと働く性機能に、俺は感心と羞恥心を同時に感じた。 
「あら、早いですね。こんな時なのにすぐに固くなるなんて・・」 
 春香の乾いた笑い。屈辱的なはずなのに、今この時においては妙な興奮剤となっていた。 
 俺の反応を楽しそうに眺めながら、春香は俺の上に跨った。そして性器同士を密着させ、陰部を触れ合わせる。 
「春香、ダメだ、それは・・!」 
 そういいながらも、股間の方から聞こえてくる艶かしい音と感触に、俺はもうほとんど降伏していた。 
 それを見抜いてるかのように、春香はにっこりと暗い笑みを浮かべ、そして・・・。 

 腰を一気に深くまで落とした。 

「うっ・・くっ!」 


 悲鳴に近い春香の声が、閉め切った部屋の中で一瞬だけ響いた。ついに、越えてはならない一線を越えてしまった。 
「は・・っうくっ・・・」 
 それは明らかな苦痛の声だった。 
「は・・るかっ!大丈夫か!」 
 動けないと分かっているのに、俺は春香に触れようとした。もちろん、そんなことは出来なかったが。 
「大丈夫・・ですよ・・・えへへ」 
 眉をしかめたまま、春香はムリに笑顔を作った。そしてそのまま、腰を上下に揺らし始める。 
「うっ!・・うう・・っ!」 
 予想通りというべきか、春香の膣はとても狭く、男の俺でも痛みを感じるほどだった。 
 しかし、これも男の基本構造というべきか、すぐに痛みより気持ちよさの方が勝ち始め、痛みを圧倒していった。 
 苦痛に顔をゆがめてあえぎ続ける春香の顔が、とてつもなく官能的だった。 

 ・・いや、だめだ。 
 こんなこと、いけない。 

 いまだしぶとく残っていた理性が、最後の力を振り絞ってそう叫ぶのだが、
それはもうすでに抵抗とすら言えないほど弱弱しいものだった。 


「春香、春香っ!」 
「プロデューサーさん!」 
 互いに昂ぶった声で相手の名前を呼ぶ。そんな行為が、さらに室内の熱気を上げ、相乗効果を生む。 
 股間から、とうとう最終局面を告げる信号が送られてくる。もう、もう抜かないとまずい。 
「春香、俺、もうイっちまう・・!早く、早くよけてくれ!」 
 俺のその言葉を聴くと、春香は今まで以上に強烈で意地の悪い笑顔を作り、言った。 
「ダメです。私の中で、いってください」 
「なにを、何を言って・・っ!」 
 その後は言葉にならなかった。さらにスパートをかけた春香に、俺はもはや抗う術などなかった。 
「良いんですよ、中に出して」 
 そう言って春香は顔を近づけてくる。それは確かに微笑んだ表情だったが、とてつもなく怖かった。 
 怖いのに・・性的な意味では、恐ろしく感じるところがあった。 
 結局、その淫靡な顔こそが止めだった。 
「うっ!」 
 瞬間、視界が真っ白になる。 
 それは、身体にある全ての感覚がそこから出て行くような、強烈な射精だった。 
「あっ・・ああっ・・あああっ・・・・・!!」 
 それと同時に、春香が首をがくんと反らす。 
「あああ、あああ、ああああああっ・・・・・」 
「はあっ・・、はあっ・・・」 
 絶頂の余韻は、しばらく続いた。春香も俺も、まるで長距離を走った後のように、荒い呼吸をし続けた。 
 そして俺はうかつな事に、再び意識を失うのだった。 


「・・ごめんなさい、プロデューサー」 
 再び目を覚ましたプロデューサーに、私はまず謝った。 
 どれだけ蔑まれるだろうか。どれだけ非難されるだろうか。 
 アイドルなんてもうやめさせられるに違いないし、警察ざたになるかもしれない。 
 でも、もう良いの。 
 プロデューサーと結ばれたあのいっとき。あのいっときの記憶があれば私は充分。もういつ、死んだっていいもの。 
「春香・・」 
 なあに、プロデューサーさん? 
「ごめんな・・」 
 なに? 
 なんで謝るの? 
「こんなにお前を追い詰めてたなんて知らなかったよ。お前ならひとりでやっていける、なんて思ってた」 

 ・・・・・。 

「でも、ムリだ。ムリだったんだな。ごめんな。お前を・・弱い子に育てちゃって・・」 
 プロデューサー・・。 
 私は再び、プロデューサーに抱きついた。 
 依存だと言われても、中毒だと言われてもかまわない。 
 私は、プロデューサーと一緒にいれれば良い。 
 子供みたいって、馬鹿にされても、良いの! 

 そして私とプロデューサーの、新しい日々が始まるのだった。 




 って、そんな都合よく行くわけないよね、と、私は妄想のままに書いていた殴り書きの小説を破り捨てた。 







 うん、妄想なんだ、すまない・・  
 現実では、あのPは着々と他のアイドルを育ててます・・リッちゃん情報によれば、相変わらず、モテモテなようです・・ふんっ。 
 一方私は今、長い休暇をやさぐれて過ごしてます・・。 
 もちろん、私はあの夜Pを襲ったりしてないし、薬で眠らせてもいません。 
 普通に別れ、普通に家に帰って泣き、普通に家でテレビを見ながらぼーっとしているだけ。 
 そうやってぼーっとしていると、今のような妄想が、微妙にパターンを変えて、浮かんでくるという、わけです。 
 でも今浮かんだのは、今までで一番強引で、一番エッチかったなあ・・・まずい、変な気分になってきた。 
 そして私は、今日何度目かの自慰を始めるのでした。 
 うん、失恋後の欲求不満アイドルなんてこんなものよ・・。 
 と、私は誰が聞いているわけでもないのに、心の中でそう言い訳した。 



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