素敵な雨上がり

作:◆yHhcvqAd4. 画:yBYfpRac

 「お疲れ様でしたー」 
 「ありがとうございましたー」 
 スタジオの中に、出演者同士、あるいはスタッフ同士の威勢の良い声と互いを労う拍手が飛び交う。 
 すぐに次の収録でもあるのかそそくさとスタジオを出る者も居れば、中に残って出演者同士雑談を楽しんでいる光景も見られる。 
 セットの裏側で俺が待っているタレントは、話もそこそこに切り上げてこちらへ戻ってくるようだ。 
 ただいま、おかえり。収録を終えた時の俺たちのお決まりの挨拶だ。 
 「中々いい表情してたぞ。作りっぽさの無い自然な顔してたと思う」 
 「そう?うふふ、今日は結構楽しんじゃったかも」 
 眼鏡の奥の瞼をキュッと細めて律子は笑った。 
 「じゃ、俺たちも出ようか。忘れ物とか大丈夫だな?」 

 765プロダクションを離れて数ヶ月。実際には子会社にいるのだから離れたというわけでもないし、
時折、候補生からアイドルになった女 

の子たちや高木社長に顔見せにも行っている。 
 それでも、現在の仕事場が新しい事務所に移った以上、やはりそういった意識があるのだった。 
 俺を引き抜いて一緒に事務所を立ち上げた張本人は、アイドルとしてステージに経つことは引退したが、
事務所の維持費のこともあり、時折メディアには顔を出している。
日本各地で大人気を誇ったスーパーアイドルということもあり、仕事はコンスタントに入ってくるし、 

今現在、経済的危機には陥っていない。 
 それにしても、アイドル候補生のプロデュースに、タレント活動に、事務仕事の手伝い。
高校を卒業して学業に割く時間はほとんど無い現状ではあるが、
よくもまぁこれほどの量の仕事をこなすものだと感心してしまう。 
 そんな律子の負担を少しでも減らすためにも、俺もキリキリ働かなければ。 
 明日のスケジュールの事を頭に思い浮かべていると、間もなくエレベーターが迎えに来てくれた。 



「それで、先週の―――が…で…って聞いてる?」 
 「あ、ごめん。ちょっとボーッとしてて」 
 「もう、しっかりしてくださいよ。もう一度言いますからね?」 
 言葉自体は初めて会った時と変わらずキツイ…が、時を経る内に律子のそれは随分と柔らかく響くようになったような気がする。 
 俺が余りにも慣れてしまったからなのか、あるいは律子が変わったからなののか。 
 「えーっと、エントランスは一階…おっと」 
 やってきたエレベーターに乗り込み、行き先の階へのボタンを押そうとしたところ、同じ行動をとった律子と手が触れ合った。 
 柔らかく暖かい体温。ほんの一瞬なのにもかかわらず、それは俺の意識の半分以上を支配した。 
 「あ…っと、すみません」 
 「い、いや、こっちこそ」 
 一瞬、空気が固まった。 
 律子はわざとらしく咳払いをすると、それっきり目線を壁にぶつけたまま黙ってしまった。 
 そんな態度を取られると、こちらもつい気まずくて押し黙ってしまう。 
 まだ左手に残っているような気がする暖かさが、あの引退コンサートの日に律子の口から紡ぎだされた一言を思い出させる。 
 いつからか俺が抱え始めたモヤモヤしたものを、かなりハッキリと形作ってしまった、あの一言。 
 『ダーリン』 
 いつも強気で、恋愛ごとには正直言ってあまり縁の無さそうな律子に冗談半分で言わせてみた言葉は、
あまりにも強烈な甘い響きをもって激しく俺の心を揺さぶった。 
 もっと事務的な冷たい響きが返ってきて、やっぱりこういうの律子には似合わないよな、
などと軽く笑ってやろうなどと思っていた俺の考えはひっくり返されてしまった。 
 今は、また聞きたい、言わせて見たいという欲望が沸々と渦巻いている。 
 もっとも、普段そんな雰囲気になることなども無く、未だに二度目は聞けずにいるのだが。 


 エレベーターを出て局のエントランスを通り抜けて駐車場へ向かう途中、ポツリポツリと冷たいものが俺の掌を叩いた。 
 「…雨?」 
 「わぁっ!いきなり強く…傘、傘…あぁっ無い!?」 
 「と、とにかく車まで急ぐぞ!ダッシュだ!」 
 突然バケツをひっくり返したような雨を空からぶちまけるように浴びせられながら、俺と律子は車へ向かって全速力で走った。 
 しかしその抵抗も空しく、駐車場の広さもあり、辿り着いた時にはポタポタ水の滴る完全な濡れ鼠状態だった。 
 「うわービショビショ…夕立だなんて、天気予報大はずれじゃない」 
 車に乗り込み、即刻暖房をONにした。秋も深まったこの時期、濡れたままというのは非常にマズイ。 
 しかも更に不運な事に、身体を拭けそうなものも持ち合わせていなかったのだ。 
 「とりあえず、出来る限り急いで事務所に戻ろう」 
 「ど…どれぐらい、かかりそうですか?」 
 車を発進させながら、俺は事務所への最短経路を頭の中で思い描いた。 
 「…40分ぐらいかかるな」 
 この状態で40分はいくら暖房がかかっているとはいえ、危険だ。風邪ですめばまだマシだろう。 
 着替えを調達するなり雨宿りできる場所を探すなりして、体温が奪われる一方のこの状況を切り抜けたい。 
 どこか、一時的にでも留まれそうな場所は…。 
 ふと看板を見て地名を確認すると、ここから10分ぐらいで着きそうなある場所が思い浮かんだ。 
 「律子、俺の住んでるマンションに一旦行こう。服とか乾かさないと、風邪でもこじらせたら大変だから」 
 「えぇっ!?でも…は…くしゅんっ!」 
 「大丈夫だ。セキュリティのしっかりしてる所だから心配いらない。今は急がないとマズい」 
 「くしゅっ!わ、分かりました。じゃあ…お、お願いします」 
 「了解だ」 
 雨粒が激しくバタバタと車体を叩きつける中、ウィンカーを出してハンドルを切った。 
 助手席から聞えるくしゃみに急かされながらの10分という時間はやけに長く感じられた。 


 「お邪魔しまーす…」 
 「ちょっとそこで待っててくれ。すぐに拭くもの持ってくるから」 
 玄関に入ってすぐに俺は、バスルームから大きめのバスタオルを持ってきて律子へ手渡し、
マット代わりにもう一枚床へ敷き、暖房のスイッチを入れた。 
 「上がっていいぞ、律子」 
 申し訳無さそうにドアを開けて入って来た律子は、小刻みに身体を震わせていた。 
 「引っ越したとは聞いてましたけど、け、け結構広いんですね」 
 意外とキレイだし、と付け足しながら、律子は編んだ髪を解いてタオルに水分を吸わせていた。 
 「ドライヤー、必要だよな?あ、あと乾燥機もあるからそれ使っても」 
 「…その間私は何を着るっていうんですか」 
 と、不機嫌そうに律子は眉をひそめた。 
 「ま、まぁそうだよな。ちょっと待っててくれ」 
 再び浴室へ向かって棚を探ってみると、以前仕事でホテルに泊まった時にもらってきたバスローブがあった。 
 匂いは…大丈夫だ。服が乾くまでの間の一時凌ぎにできるだろう。 
 そう思い、律子にその旨を伝えてみると、思いの外あっさりと承諾してくれた。 
 「ホントは断固拒否する所ですけど…や、止むを得ません…よね。今はこの寒さをなんとかしたいし…」 
 納得したとはおおよそ言えないような表情だったが、律子にバスローブを手渡してひとまず浴室へ案内した。 
 「えっと、こっちがシャワーで、ここに洗濯機な。身体温めるのにシャワー使ってもいいから」 
 「はい、ありがとうございます。まさかとは思いますけど…覗いたりしませんよね?」 
 「そ、そんな事するわけないだろ!分かってるって」 
 ホントかなぁ、と律子はジトっとした目で俺を見たが、 
 「なんてね。ありがたく使わせてもたいますね。じゃあ…」 
 と言って一礼した。 
 俺は浴室の戸を閉め、リビングのハンガーにびしょびしょのズボンとジャケットをかけ、外出できる程度の服装に着替えた。 
 肌に張り付く冷たさからようやく解放されると、俺の意識は冷静に現在の状況を把握し始めた。 
 悪天候に見舞われて咄嗟の判断だったとはいえ、女の子を家に連れ込み、今この瞬間に浴室を貸している。 
 更に都合の悪いことに、その女の子は最近何かと気になってしまっている存在だ。 
 こんな状況で冷静でいろという方が難しい。 

 気を紛らすついでに気象情報を見るためにTVをつけると、早速求めていたものが流れていた。 
 『夕方より降り始めた雨は強まり続け、都内各所では道路に水が溜まり始め、多くの交通機関では規制が…』 
 窓から外を見てみると、先ほどのにわか雨などほんの序の口にしか過ぎなかったような大嵐が暴れまわっていた。 
 見れば地面は小川のようになりつつあり、吹き飛んだ傘の残骸が道端に点在していた。 
 再びTV画面に目線を戻すと路線情報に移っていて、都内の路線は一部の地下鉄を除いてことごとく運休。 
 「…こりゃひどいな」 
 色々なチャンネルをザッピングしてみたが、通常通りの番組でも外枠に気象情報が流れている有様だった。 
 参ったな。律子を家まで送っていかなくちゃいけないのに、道路も事故があってかなり酷い状態みたいだ。 
 仕事が既に終わっていた事は本当に幸いであった。 
 あの収録の後にまだ仕事が控えていたりしたら大変な状態になっていたに違いない。 
 と、俺が今日のこの後のことを考えていると、浴室のシャワールームの水音が止み、しばらくして浴室の引き戸が開いた。 
 「ふぅ…どうですか?状況は」 
 「あちこちで浸水だってさ。電車もことごとく止まってるみたいだ」 
 「え〜、そんなに酷いんですか?」 
 「道路も混んでるみたいだし、あのまま事務所に向かってたら今頃まだ車の中だったろうな」 
 不幸中の幸いですね、とため息のする方向へ視線を向けて見ると、先ほど渡した白のバスローブに身を包んだ律子が立っていた。 
 肌をほんのりと湯上りのピンク色に染め、ほどいた髪を肩口に垂らしながら。 
 「ちょっと…大きかったか?」 
 成人男性用のバスローブは156cmの身体にはブカブカだったようで、両手は袖に隠れてしまっているし、裾も足首ギリギリ。 
 バスローブを着ているというよりもバスローブに着られてしまっているのだが、そんな姿がなんだか可愛い。 
 勿論直接言うとヘソを曲げてしまうので、黙っておく。 
 本当はもっと律子の事を褒めて自信をつけてあげたいのだけれど、
極力容姿やスタイルには触れずにいた事が今でも続いてしまっている。 
 「いいですよ、別に。一時的なものですし、全身隠れる方がいいです。ドライヤー使ってもいいですか?」 
 「ああ、浴室にあるからご自由に」 
 「はい」 

 部屋もだいぶ暖まり、一時的な待機という事を忘れてしまいそうになっていると、
カーテンの隙間からギラッと紫光が差し込みブラウン管に反射した。 
 数秒置いて、空が唸り声を上げて空気をビリビリと震わせた。 
 あぁ雷か、と俺が思った瞬間、浴室で叫び声と、ガタッと何かがぶつかるような物音がした。 
 「どうした?」 
 浴室のドアを開くと、ドライヤーを握り締めたまま、力なく壁に寄りかかる律子がうずくまっていた。 
 「う、うぅ…ひえっ」 
 もう一度、さっきより少し大きな雷鳴が唸ると、律子は更に身を縮こまらせた。 
 「雷…ダメなのか」 
 「あ、い、いぇっ、そんな事は――きゃわっ!?あ、あわわ…」 
 「とりあえず、ここよりリビングの方が安心するだろ。行こう」 
 「だだだ、大丈夫…ってああ、こ、腰が抜けて、立てな…」 
 視線はあちこちに泳いでいるし、尻餅をついたまま両手をヒラヒラと空中に漂わせ、
自分でもよく分かってないであろう何かのサインを出していた。 
 こんなにあからさまにうろたえている律子は珍しい。というか、初めてかもしれない。 
 「しょうがないな、ホラ」 
 手を差し伸べて律子の右手を握ると、ガシッと握り返してきた。そのまま引っ張ると、ようやく律子の腰が持ち上がった。 
 すみません、といいながら、おっかなびっくり歩く律子をリビングへ連れてきて、ソファーの上へ座らせた。 
 「何か飲むか?」 
 「あ、いいんですか?」 
 「コーヒー、牛乳にオレンジジュース、後はビールなんかもあるぞ。どうだ?」 
 「…オレンジジュースでお願いします」 
 呆れたように言う律子だが、オレンジジュースとは珍しい。いつも事務所じゃコーヒーなのに。 
 自分のマグにインスタントコーヒーを注ぎ、グラスにオレンジジュースをトポトポ入れて、律子にグラスを手渡した。 

 「雨、止みませんね…雷も」 
 少しオレンジジュースを飲んで表情に生気が戻ってきた律子がボソリと呟いた。 
 TVニュースのキャスターは、このまま行くと都内の一時間辺りの最大雨量の記録が更新されてしまうであろう事を告げていた。 
 「それにしても、律子が雷苦手なんて、意外だな、ははっ」 
 「わ、笑わないで下さいよぉ。誰だってダメなものの一つや二つ、あるに決まってるじゃないですか」 
 つい口元が緩んでしまう俺を見て、律子がため息をついた。 
 「律子、事務所に用事あるか?交通情報が良くなったら車で送るよ」 
 「いえ、明日は急ぎの仕事も入ってませんし、特には。それに電車で帰れるんで…って動いてないわよね、これじゃ」 
 と、その瞬間、青白い光が瞬き、1テンポも置かない内に窓の外で何かが激しく弾けた。 
 「おわっ!?」 
 「きゃああーーーーっ!!」 
 部屋の中が揺れたと思うほどの破裂音に、思わず二人して叫び声をあげてしまった。 
 光ってほぼ同時に音がした事とこの破裂音から、どうやらそう遠くない所で落雷があったようだ。 
 一瞬の内に高鳴った鼓動が収まるに連れて、身体にのしかかる重みを感じた。
重量感の方へ向くと、俺の胴体に律子の腕が巻きつき震える身体を俺に預けていた。 
 「り、律子?」 
 ズズズ、と雷雲がうなると、しがみつく両腕がギュウ、と強く締め付けてきた。 
 「うぅ…ホントに駄目なんです、すみません、許して、勘弁して…」 
 その言葉が俺に向けてなのか、空の上の雷様に向けてのどちらなのかは分からないが、相当に参っている事は確かだった。 
 「大丈夫。建物の中にいれば雷が落ちる心配は無いよ」 
 「で、でで、でも…」 
 「安心しろって」 
 縮こまる姿がやけに小さかった。 
 俺は律子の背中に腕を回して抱き寄せ、左手で頭を撫でた。 
 フカフカの布地越しに感じる体温は、暖かかった。 
 「…うん」 
 律子は俺の腕を跳ね除けようと抵抗することは無かった。 
 それどころか、遠慮がちだった距離をぴったりと詰めてきて、
時折轟く雷の音や窓から差し込む光にビクッとしつつも、声もあげず、静かに呼吸していた。 
 雨が窓を叩き、風が吹き荒れる中、淡々とブラウン管の中で喋り続ける声を聞きながら、俺たちは過ぎていく時間をただ過ごした。 

 俺はと言うと、気が気でないのを悟られまいと必死だった。 
 常に胸を張って堂々としていて、上司の俺にも何の遠慮も無くズケズケと物を言う律子が、
俺の腕の中で弱く小さな所を晒しているこの状況。 
 更にこの密着度といい、鼻腔をくすぐる風呂上りの匂いといい、
足元のおぼつかない台に鉄の塊を両手に提げて乗っているような、そんなグラグラした心境だった。 
 そうして…しばらく大人しくしていると、やがて雷の音だけは遠ざかっていき、
雨音と風の唸りはそのままでもだいぶ落ち着いてきたように感じられた。 
 「あ…」 
 落ち着いてきたのは律子も同じであるようで、この密着した状況を把握したのか、モゾモゾしながら所在無さげに視線を泳がせた。 
 「えっと、その…社長?」 
 頭の中が、目の前の女の子のことでいっぱいになってしまいそうだった。 
 言葉にすることはおろか、形にすることも避け続けてきた感情がどんどん膨らみ、
律子を放さないように腕で捕まえておけ、と俺に命じていた。 
 「あ、あの、もう大丈夫ですからっ!いきなりすみませんでした」 
 腕の中で律子がもがくが、俺はその身体を離せずにいた。いや。離したくなかったのだ。 
 「もうちょっと、もうちょっとだけ…」 
 「もうちょっと…って」 
 律子の言葉には答えず、真正面から小さな身体を抱きしめた。 
 肩甲骨の中間辺りに掌をあてがうと、律子の鼓動と温もりが伝わってきた。 
  
 そのままくっつきあっていると、俺の頭にある浮かんだ。 
 今この時に律子に頼んだら、また『ダーリン』と呼んでくれるだろうか。 
 「あの、社長。そろそろ…」 
 「なぁ律子。社長じゃなくてさ、もう一回、あっちの言い方で呼んでくれないか」 
 「あっちのって、アレですか?」 
 「ダメか?」 
 「ダメじゃないけど…どうして?」 
 「どうしてって、そりゃあ…」 
 「い、言ってもいいけど、何となくで言いたくないの。私が納得できる理由…聞かせてよ」 
 理由…それはもう、今この瞬間では分かりきっていた。もしこの瞬間を逃したら、もう言葉にする機会が訪れないかもしれない。 
 今後も律子とは長い付き合いになるだろう。たとえそうであっても、今が最初で最後のチャンスかもしれない、そう俺は感じていた。 

 「それは…俺は律子が…す」 
 「ま、待って!」 
 突然腕の中から律子がすり抜け、お互いの身体が離れた。 
 「あのね、わ、私より、もっといい子、いると思うの!私なんて、いつもキツい事言ってばっかりだし、
765プロのみんなみたいにオシャレでも無いし、ひねくれてるし…可愛くも無いから…考え直した方が…」 
 律子の声は段々と小さくなり、釣られるように瞼も伏せられていった。 
 初めて出会った頃からずっと、律子は自分のビジュアルを気にしていた、少なくとも、悪い意味で。 
 俺がルックスを褒めてもあまりいい顔をしなかったのは、きっと、自信の無さの表れだったのだと思う。 
 765プロの社長の目は確かだ。あそこの候補生達のビジュアルは、初めて見た時びっくりした。 
 『人数合わせで候補生にされた』とボヤいていたあの時の律子だって、
他の女の子に決して引けを取らないぐらい、輝ける可能性を秘めていたのだ。 
 俺はあの時、眼鏡の奥にあった瞳に確かに何かを見出したんだ。 
 「あのな律子。俺は別に、可愛い女の子とかオシャレな女の子が好き、っていうんじゃなくて…」 
 「………」 
 「律子が好きなんだ。○○みたいな子とか、××っぽい子じゃなくて、律子がいいんだ」 
 「…いいの?私みたいなカタブツ、楽しくないと思うけど…後悔…しない?」 
 後悔なんてするもんか、と俺が言うと、律子は困ったように眉を下げ、少し躊躇してから両腕を広げた。 
 「ありがとう…ダ、ダーリン」 
 あの時は、顔を見ないよう言っていた律子が、しっかり俺の目を見つめながら言ってくれた。 
 求めるままにそっと抱き寄せると、律子が顎を俺の肩に乗せつつ、細い両腕を背中に回してきた。 
 もう一度、優しく穏やかな声で、ダーリン、と囁かれ、背筋がゾクゾクした。ああ、なんて甘い響きなんだろう。 
 こんな言葉があの律子から出てくるなんて、誰が想像できただろうか。 
 肩を抱いて見詰め合うと、驚くほど自然に律子が瞳を閉じた。 
 「ん…」 
 律子の柔らかくしっとりした唇は、甘酸っぱいオレンジの味がした。 


 「わ、私、こんな時どんな顔をしたらいいのかしら、頬が緩んじゃって…だらしないような」 
 「そのままでいいよ。緩んでる律子の顔なんて滅多に見られないし…可愛いよ」 
 「……」 
 「あれ、嫌がらないんだな?」 
 「どうしてかしら…なんだかいい気分になっちゃう。こういうの、好きじゃないはずなのに」 
 頬を染めてはにかむ律子に、否が応にも胸がドキドキしてしまう。 
 さしずめ、憧れのアイドルと握手会で対面するファンの心境といった所だろうか。 
 そうだ。俺は律子の最初のファンでもあるのだ。そして、日本中のどのファンよりも俺が律子を愛している自信がある。 
 「…!!」 
 ふと目線を下げると、ややはだけたバスローブの襟から、くっきりとした谷間が姿を露にしつつあった。 
 水着姿を見ていたからスタイルの良さは既に知っていたが、こう間近で見るとなんとも予想外にダイナミックだ。 
 股座に律子の膝が当たっているという状況など知らん顔で、急にスイッチが入ったかのように股間に血液が集まりだした。 
 「あっ…こ、これって…」 
 「す、すまん律子、これは男性の生理的現象の一つで、その」 
 止まれと念じた所で止まるはずも無く、俺の身体機能はパーフェクトに役目を果たし、
ガソリン満タンで律子にその存在を知らせてしまった。 
 「わ、私だってそれなりの年齢だし、何も知らないわけじゃないけど…えっと…」 
 どうにもいたたまれない気持ちになっていると、ぷいと横を向いた律子が実に歯切れ悪そうに言った。 
 「私と…そういう事したい……って思ってる?」 
 勿論俺だって若い男だ。すぐ傍に魅力的な女の子がいれば何も意識しないことの方が少ないと言っていい。 
 しかし、ついさっき想いを伝えたばかりの相手に対して、
このあまりにも正直すぎる反応はいささか短絡的というか、即物的すぎやしないだろうか。 
 拒絶されたってごく当たり前だ。だからこそ、律子のその言葉は思いもよらなかった。 
 「正直言ってね…あなたとパートナーよりももっと仲良くなれないかな…って、期待してた。
ありえないって思う気持ちの方がずっと強かったけど…。 
  だから、今のこういう状況、夢か幻か何かじゃないかって…不安で」 
 「律子…」 
 「ねぇ、私をアイドルにしてくれた魔法使いさん……お願い。私にもう一度、魔法をかけてくれませんか?」 
 上目遣いで俺を見上げる律子の、頼りない表情。律子の不安を取り除いてあげる事と、俺が律子を求めること。 
 それが同じなのかは分からないが、その一言が俺に火を付けたのは確かだった。 
 「アッ…ン」 
 顎を引き寄せて、律子の唇をやや強引に奪った。 

 さっきのような触れるだけの微笑ましいキスではなく、もっと荒々しく、そして下品な。 
 半開きになった隙間を目掛けて舌を割り込ませ、口内へ侵入してねっとりとした律子の舌を捕まえた。 
 ただされるがままになっているわけでもなく、蹂躙する俺の舌に遠慮がちに絡み付いてくる。 
 「ん、ん…ふ」 
 鼻息に混じった色っぽい声がますます俺のボルテージを引き上げていく。 
 キスがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。
触れ合っているのは唇と粘膜同士だけだと言うのに、こんなにも股間がジンジン疼く。 
 たまらなくなってソファーの上に押し倒そうとしたが、視界の端にベッドが佇んでいるのを見て踏みとどまった。 
 唇を離して、一筋垂れた唾液も舐め取ってしまうと、俺は律子の膝の裏と背中に手をあてがい、横抱きに抱え上げた。 
 俗に言うお姫様抱っこの体勢でベッドへ律子を運ぶ間、巻きついたままの腕の奥では律子のがぼんやりとしていた。 
 ベッドの上に小柄な身体を下ろして俺も乗ると、二人分の体重を受けたベッドがギシィ、と重たい悲鳴をあげた。 
 悪いな、しばらく頑張ってくれ。 
 はだけかけたバスローブのオビを解こうとする俺を、律子は目をとろんとさせたままボーッと見ていた。 
 「寒くないか?」 
 うん、平気、という代わりに律子は縦に首を振った。 
 それにしても、律子の髪を下した姿はとても新鮮で、ドキドキしてしまう。 
 いつもより少し大人っぽく見える顔が、凹凸の豊かな身体を余計に際立たせている。 
 帯を解いて襟からバスローブをめくっていくに連れて、露になっていく素肌。ゴクリと喉が鳴った。 
 「……!っう……」 
 声にならない声をあげながら、茹で上がったように律子は真っ赤になって腕で胸元を覆い隠した。 
 肩紐が無かったのでまさかとは思ったが、バスローブの下には何も着けていなかった。 
 「や、やっぱ恥ずかしいか?」 
 「当たり前じゃない……こんな事初めてなんだから…」 
 幼稚なことかもしれないが、俺はその言葉につい嬉しくなってしまう。 
 俺でもいい、と思ってくれた証なのだろう。
こんな行為に及ぶことを許してくれるぐらい信頼されているという事実に胸が熱くなった。 
 「メガネ、取るぞ…」 
 「あっ…」 

 トレードマークの眼鏡も外してしまうと、そこに現れたのは、正真正銘生まれたままの律子の身体と素顔。 
 切り揃えた前髪の隙間に見えるつるんとしたおでこと、存在感のある眉とふわっとした長い睫毛。 
 律子の気性を表すようなキリッと引き締まった瞳が透明な潤いを帯びていて、吸い込まれるように見入ってしまう。 
 今まで眼鏡とおさげ髪の律子しか知らなかったことが、何だか悔しい。 
 「ちょ、ちょっと、そんなに見つめないでよ…恥ずかしい」 
 「あ、いや、その…あんまり綺麗だから、見惚れちゃって」 
 「う…何言ってるのよ、ばか…」 
 言葉とは裏腹に、口元を緩めて照れる仕草がたまらなく可愛らしい。 
 ああ、いつもふと見せる笑顔も可愛くて仕方が無いっていうのに、こんなの反則だ。 
 「律子が初めてで良かったよ」 
 なめらかな肩の曲線を撫でながら言うと、どうして?と律子が聞き返してきた。 
 「もし律子に誰かとの経験があったら……凄く嫉妬してた」 
 その一言を聞くと、目を細めて律子がニッコリと笑った。 
 「な、なんだよ」 
 「ヤキモチだなんて…うふふ、可愛いんだ」 
 「か、可愛いとは何だっ」 
 「だって、ねぇ…」 
 「むぅ…そんな事を言う奴はこうだっ!」 
 目下にある肢体に覆いかぶさって、唇を唇で塞ぎながら、胸元を隠す手を引き剥がしてしまおうと手首を掴んだ。 
 「あ、ンッ、ン…」 
 わざとらしく音を立てて下を嬲っていると段々と手の力が弱まり、腕の隙間に手を滑り込ませてその下にある膨らみに這わせた。 
 ふにっ、とした柔らかさに触れると、一瞬律子の身体がビクッと震えた。
肌のすべすべの感触の下に瑞々しい弾力があって、なんとも不思議な感触だ。 
 乱暴にしてはいけないような気がして、慎重に、撫でるようにして指先の感覚に神経を集中させた。 
 「ふ…あ」 
 「大きいよな、律子の胸」 
 「んっ…そ、そうかしら?」 
 「ああ。ふにふにのぷよぷよで、いつまでも触ってたいぐらいだ」 

 男として嬉しい、と付け加えると、よしてよ、スケベっぽい、と律子は僅かに息を荒げながら答えた。 
 少しづつ少しづつ力を強めて乳房が歪むぐらいにしていると、気持ちよくなってきたのか徐々に律子の肌が汗ばんできた。 
 それにしても、本当に大きい。掌にはやや収まりきらないサイズのそれは、ずっと触っていても飽きがこない。 
 いつも見ていた青のブラウスの下にこんなに柔らかい物があったのだと思うと、かっと頭が熱くなった。 
 さっきから股間でバキバキに固くなった熱がじりじりと疼いて仕方が無い。 
 今すぐに太腿にでもこすりつけて全部吐き出してしまいたい…と思っていると、ある考えが閃いた。 
 これぐらい大きければ…多分できるよな。 
 「律子、ちょっと」 
 「え、何?」 
 「胸、両手でグッと寄せてみてくれるか?」 
 言われるがままに、律子は両手でその豊かな膨らみを寄せた。 
 「そのままでいてくれよ…」 
 ファスナーを開いて固くなりきったペニスを取り出そうとして、ちょっとつっかえた。 
 ようやく外に出すと、それは外気に反応するかのようにビクンと反り返った。見ると、既に先走りが滲んでいる。 
 「うわ…」 
 反射的に律子はそれから目を逸らした。と思いきや、横目でチラチラと様子を伺っている。 
 「そ、そんなになっちゃうの?…ちょっとグロテスクかも…」 
 赤黒い先端を見ての感想と思われる。確かにいきなりこれはちょっとグロいかもしれない。 
 「いいか?」 
 「う、うん…」 
 胸元に跨るようにしてベッドに乗せた膝に体重をかけて座った。 
 すんなり答えてくれたという事は、今からしようとする事への知識はあるらしい。 
 「じゃ、いくぞ…う、あっ」 
 寄せられた谷間に腰を進め、熱くなった肉の塊を埋めていくと、あまりの気持ちよさにいきなり声が出てしまった。 
 手で触れた時とは全くレベルの違う、ダイレクトな刺激が猛スピードで脊髄を駆け上がった。 
 「す、凄い。柔らかくて…くぅ」 
 すべすべした肌の滑らかさと、やや汗ばんだ弾力が同時に襲い掛かってくる。 

 腰を進めた時にサオが包まれる感覚と、引いた時にカリが引っかかる感じがたまらない。思わず腰が動いてしまう。 
 「んっ…あ、これ…熱い…」 
 往復する度に谷間から顔を覗かせる亀頭を見て、律子がギュッと押さえつける手の力を強めた。 
 締め付け、というには緩い圧迫感が増して、ぴったりとペニスが包まれた。 
 夢中になってその柔らかさを貪っていると、寄せ上げられた乳房の頂点の、密やかに自己主張する桜色の頂点が目に入った。 
 「ああっ!?あ、だ、そこ触っちゃ…ふぁ、あぁん!」 
 キュッ、キュッと双方に指をあてがってつまむと、圧力が少し緩まった。 
 いつの間にか固くなってる。こねくり回す指先に負けじと、内側からもやや固い弾力が押し返してきた。 
 みるみる内に血液が集まり、乳輪までパンパンに膨らんできた。それを更に、押し潰すように捻る。 
 「い、あぁ…いじっちゃ…だ、だめ…手、離れちゃう…」 
 反射的に余った指を広げて乳房を持ち上げるのに協力しつつ、親指をあてがって固くなった乳首をいじめた。 
 鼻にかかった喘ぎ声に耳まで愛撫されているようで、柔肌を擦り付ける速度が無意識的に上がった。 
 そして、もう少しだけこの気持ちよさを楽しもうと思った瞬間…腰の奥から射精感が突如爆発した。 
 「あっ、う、で、出るっ…!」 
 こらえようも無い奔流に腰が震え、同時に、どろっ、どろり、どろりと溜まった熱が吐き出されてゆく。 
 ぴったり亀頭を包み込んだ谷間の上から下から白い粘液が漏れ出して、綺麗な肌をどんどん汚してしまう。 
 「あっ、ん…あ、熱…」 
 びくっとペニスが震えて欲望を吐き出す度に、視界が白くフラッシュする。 
 俺が射精を続けている間中も、律子は勢いよく白濁液を放出するペニスをしっかりと押さえ込んでいた。 
 ようやく精液を打ち出す脈動が収まった頃を見計らって、俺はぷるぷるでぎゅうぎゅうの圧力からペニスをずるりと引き抜いた。 
 まだ尿道の中に残っていたものがつつっと名残惜しそうに糸を引いた。 
 「…はっ。ご、ごめん、我慢できなくて、つい…。すぐ拭くから」 
 一人でした時とは比べ物にならないほどに大量の粘液でべったりまみれた乳房にハッとして、
すぐさまティッシュを取り出して後始末をした。 
 それにしても、自分の手以外での初めてがパイズリか…こらえきれずに一方的に絶頂を迎えてしまったことが何だか恥ずかしい。 

 「よし…綺麗になった」 
 「ね、ねぇ…」 
 「ん、なんだ?」 
 「…気持ちよかった、のよね?男の人も、声出すんだね」 
 「あ…それは、その…」 
 くっ、顔が熱くなってくる。恐らく俺の顔は真赤になってしまっているだろう。 
 「そんなことより!次は律子の番だ」 
 背中に腕を巻きつけて律子の身体を抱き寄せると、細い首筋から鎖骨へ、
そしてまだ少しすえた臭いのする胸元へと、迷う気持ちはあったが舌を這わせた。 
 狙いは、コチコチに固くなっていた乳首だ。 
 「ひぃっ、くああん!」 
 軽めに嘗め回しただけでハッキリとしたリアクションが返ってきた。どうやらここは特に刺激が強いらしい。 
 自分が咥えた方と逆の乳房は、全体を撫で回しながらもしっかり指先は頂点に添えて捏ね回した。 
 「あぁっ、んう…なんか、変になっちゃいそ…きゃん!す、吸っても何も出ないわよぉ…」 
 音を出さない程度に吸い付くと、俺の頭を律子の腕が抱え込んできた。 
 まぁ、そりゃ何も出ないよな。とはいえ、舌先に感じるコリコリした固さはついいじくり回したくなってしまう。 
 「はぁっ…!ふ、ん…んあぁ…」 
 さっきから感じていたが、こう間近で喘ぎ声を聞いているせいで、
さっきあんなに欲望を吐き出したペニスは既に固さを取り戻している。 
 あれだけ出したはずなのに、もう疼き始めている。 
 ここで終わりでは無いのだ、と思い、俺は乳首を舐める口はそのままに、

右手でスリスリと平らなお腹をさすりながら、下腹部へとアプローチをかけ始めた。 
 胸からの刺激に気がいってしまっているのか、律子がそれに気づく様子も無く、思ったよりも速やかに股座へと侵入を果たした。 
 この辺りだろうか、と思いながらまさぐっていると、湿った、というより潤ったものが指先に触れた。 
 「は…あぅっ!」 
 …濡れてる。俺の指先は確かにそれを感じた。が、デリケートな場所というイメージがあるから、乱暴なことはできない。 
 見ながらした方がいいだろうと思って口を離し、下半身に視線を向けると両脚はぴたっと閉じられていた。 
 「やっぱ、恥ずかしいか?」 
 「あ、当たり前じゃない!誰にも見せたこと無いんだし……でも、私もさっきあなたのを見ちゃったし、ね」 
 不公平なのは良くないか、と言いながら、律子はゆっくりと自ら両脚を広げてくれた。 
 「あんまり…じっくり見ないでね。今だって顔から火を吹きそうなんだから」 

 いよいよ晒された律子の大事な所。濃いと思っていたが、意外と陰毛は薄い。 
 その下の割れ目になった部分の粘膜は、血液が通っているとはっきり分かるサーモンピンクをしていた。 
 目で見た限りでも、少しだけ濡れているのが分かる。それを見た瞬間、張り詰めたペニスに更に血が集まったように感じた。 
 「じゃ、失礼して…」 
 どんな表情をしているのだろうと律子の顔をちらりと見たら、両手で顔全体を覆ってしまっていた。 
 どうやら、局部を見られるよりも表情を見られる方が恥ずかしいらしい。 
 「ふ…っん、あ、あっ…」 
 小陰唇を指で広げると、粘っこい音と一緒に膣口から一筋、愛液が湧き出てきた。 
 と、丁度縫い目の頂点の辺りに、皮を被った膨らみのようなものが見えた。あ、これが…あれか。 
 「くあぁっ!?」 
 確か皮の上からじゃないと痛いんだっけ、と思いつつ、愛液を親指に塗りつけてぐにぐにと皮の上から揉んでいると、
電流を流したように律子の腰がビクビクと跳ねた。 
 「うぅっ!あっ、あ、ああぁぁぁ……!」 
 小さな場所だというのに、返ってくる反応は今までで一番大きい。こんなに反応が凄くて大丈夫なのだろうか。 
 「律子は…一人でしたりするのか?」 
 「はっ…ハァッ…た、たまには…するけど…ああんッ!」 
 他の四本の指で触れている性器の下部辺りの潤いがかなり増してきた。
親指でクリトリスを捏ねながら、湧き出てきた愛液で膣口の周りを刺激してみる。 
 「あ、ダメっ!や、あっ、あ、あ、あああぁぁぁぁっ!!」 
 速度を上げていこうと思った矢先に律子が身体を弓なりにぐぐっと反らし、
目いっぱい緊張した後、ぷつりと糸が切れたようにベッドへ沈んだ。 
 「ハァッ、ハァ…ふ、ぅ…」 
 肩で荒く息をする律子の身体はゆるゆるに弛緩しきっていて、力の入らなさそうな様子であった。 
 もしかして、今ので絶頂を迎えたのだろうか。 
 「大丈夫か?」 
 「へ、平気…けど、凄かった…ビリビリしたのが…まだちょっと…」 
 息も切れ切れに話す姿を見る限り、今はこれ以上刺激しない方がいいのかもしれない。 
 目の端に涙を浮かべ、半開きになった唇が艶かしくて、俺は吸い寄せられるようにまたキスをしていた。 
 律子の呼吸が落ち着くのを待つ間、俺は財布からコンドームを抜き出し、おぼつかない手つきでどうにかこうにか装着した。 
 その様子を見ていた律子が、一瞬表情を強張らせた。 

 「怖いか?」 
 「…ちょっと緊張してるだけ。覚悟は…できてるから」 
 「なるべく痛くならないよう…ベストは尽くすよ」 
 上になって覆いかぶさりながら俺が言うと、律子がクスリと笑った。 
 「『ベストを尽くすよ』って、初めて会った時も言ってたわよね、ふふっ」 
 「あ、そうだな。そう言えば」 
 あの頃の俺はといえば、律子に怒られてばかりで我ながら本当に情けなかったと思う。
怒られているのは今でも同じかもしれないが。 
 「大丈夫よ。あなたのこと、信頼してるから」 
 「ああ」 
 そろそろ頃合かと思い、熱くなったモノを収めるべき膣口を目掛けて腰を進めた…が、つるりつるりと滑るばかりで前に進めない。 
 「あっ…ん」 
 「あ…あれ?」 
 おかしいな、この辺りのはずなのに。
律子の方はもう濡れそぼって受け入れ準備が万端のようだが、俺がここで戸惑っていては先に進めないじゃないか。 
 しかし、そんな思いとは裏腹に、全く持って的が定まらず、その焦りがますます俺から冷静さを奪っていった。 
 「ど、どこだ…ここか?」 
 くそっ…だめだ。失敗の二文字が俺の頭の中をグルグルと駆け回っている。 
 恥ずかしさと情けなさに段々逃げ出してしまいたくなってきた。すまん律子。やり方は頭では分かっているんだ。だけど…! 
 「…!」 
 その時、頬に暖かいものが触れて、泥の中から引っ張り出してもらったかのように頭がクリアになった。 
 見ると、律子が今まで見た事も無いような優しい微笑みを浮かべながら、手を差し伸べて俺の頬を撫でていた。 
 「そんなに泣きそうな顔しないの」 
 「り、律子、ごめん、その…俺、男だし年上だから、もっと上手くリードしようと思ってたのに、こんなはずじゃあ…」 
 「でも、あなただって初めてなんでしょ?」 
 「う…そ、そうだけど」 
 この歳で未経験ってのも、男としては自信の持てない話なのであまり知られたくは無かったが。 
 「だったらしょうがないわよ。初めから上手くいくわけないじゃない」 
 「それはそうだけど、こんな時ぐらいは俺が…」 
 「うちらってさ、どっちか片方が一方的に引っ張っていくような感じじゃなくて、
いつでも足並み揃えて二人三脚、って関係だと思うの」 
 それは正しい。いつだって俺たちは二人でお互いの欠点を埋めあいながらやってきた。 
 初めは俺が律子に引っ張られてばかりだったような気もするけど、
時が経つに連れて足並みが揃うようになっていったのは間違いない。 
 お互いがお互いのベストパートナーなのだ。 
 「私もあなたも初めて。だから、一人で突っ走ろうとしないで…二人で頑張りましょ?」 
 そう言って律子はウィンクしてみせた。 
 「律子…」 
 どうしようもないぐらい、目の前の女の子が愛しい。いい女を好きになれたと心から思う。 
 「じゃ、気を取り直して…」 
 「うん。ここ、多分ここだと思うから」 
 律子が俺の入るべき位置を示し、手で引っ張って誘導してくれた。 
 「OK、じゃあ…今度こそ行くぞ?」 
 律子は黙って頷いた。先ほどの不安そうな表情は消えて、覚悟の決まった、というか、迷いのない目をしていた。 
 「あ、ちょっと待った。その前に…」 
 宙ぶらりんになったままの律子の手を握り、しっかりと指を絡め、もう片方の手は、俺の背中に回させた。 
 「痛かったら、思い切り爪立てていいから」 
 「うん…ありがとう」 
 向こうからも指が絡みついてきて、きゅっと握り返してきた所で、俺は思い切って腰を進めた。 
 「くうぅっ!?う…はぁぅ…!」 
 思っていたよりも抵抗は薄く、入り口から中へは入り込むことができた。が、猛烈な圧力がかかってきて、これ以上奥に進めない。 
 「律子、力抜けっ」 
 「ぬ、抜いてるけどこれが限界……きて、そのまま奥までっ…」 
 「よ、よしっ…」 
 奥からの抵抗を押し返すようにして、更に腰を押し込んだ。すると、ずるりと一気に奥へと滑り込み、何かに当たって行き止まった。 
 「あ、ぐっ…!はぁ、うぅ、うううう…」 
 奥まで入り込んだのを自覚したと同時に、
ギュウゥと強い力で握り締められる左手と、強く、だが爪の刺さる痛みは無く押さえつけられる背中。 
 先ほどあげていた艶かしい声の音量とは酷く対照的な、抑えるような呻き声が下になった身体から漏れ出てきた。 

 「お、おい。痛いなら痩せ我慢するなって。爪立てていいって―――」 
 「だ、だ…大丈夫。女だから…耐えてみせるっ…くうっ、ふうぅぅっ…!」 
 「律子…」 
 律子の中は暖かくて、しっとりと湿って俺の熱くなった塊を包み込んでくる。 
 しかし、その律子本人は目をきつく閉じて痛みに耐えている。その痛みを想像することすらできなくて、胸が痛んだ。 
 息を吐いて痛みに耐える律子を、俺は抱きしめた。少しでも痛みが和らぐように。 
 背中にはじっとりと汗が浮き出ていて、荒い呼吸の度に肺が膨張するのが指先に伝わってきた。 
 「…痛かったか?」 
 柔らかい髪を手ですくように撫で、つるんとした額にキスをした。 
 「ん…もうだいぶ収まってきたわ…動いてもいいわよ」 
 グッと背中を押さえつけていた指先の圧力が消え、暖かい掌が俺の背中を撫でてきた。 
 「動いて…大丈夫なのか?」 
 「大丈夫よ。こんなぐらいじゃ壊れないから、遠慮しないで」 
 「うん、じゃあ…ゆっくりな」 
 ゆっくりと、奥まで入れたペニスを手前に引き抜いていく。薄いとはいえ、膣内の暖かさや僅かなぬかるみは感じ取れた。 
 ごりごりごりっと、襞状の組織がカリをこすり立てて、思わず上ずった声が出た。気持ちよすぎて腰が痺れる。 
 襞はただそこに存在しているだけでなく、中で何やら蠢いていて、それがペニスの輪郭を嘗め回してくるのだ。 
 さっき胸でした時も相当気持ちよかったが、これはその更に上を行っているかもしれない。 
 「はっ…ん」 
 律子はまだ少し痛みをこらえるような声を出している。ゆっくり、ゆっくりだ。引いたものを、今度は奥へ。 
 根元まで飲み込まれるかという所で、行き止まりに当たった。そしてまた引く。 
 今俺が抱いているのは、元担当アイドルであり、大切なパートナーとしてずっとやってきた女の子だ。 
 胸の奥が燃え上がるようなこの熱いものは、紛れも無く俺が律子を想っていることを自覚させた。 
 愛しさと背徳感がごちゃ混ぜになって、わけの分からない感情が心を塗りつぶしていく。 

 「あっ、は、あは…」 
 あっという間に昇り詰めて爆発しそうな快感に耐えながら何度か往復していると、律子の声色が少し変わってきた。 
 「まだ…痛いか?」 
 「っは…だいぶマシには…。なんか変な感じ。身体を押し広げられてるみたいな、不思議な感じ…」 
 押し込み、引き抜きを繰り返す内に、心なしか膣内の滑りがよくなってきた。 
 これ以上激しく動いたら限界を超えてしまう、と思いながらも、
この緩やかな速度を速めたらどうなるか、といった事を、考えるより先に実行していた。 
 「はっ、ん…ふあ…んっ、ん、ん…」 
 律子の声に段々と甘いものが混じり始めてきた。 
 「律子、律子っ…」 
 気が付けば、俺は彼女の名前を呼んでいた。もう勢いづいた欲望が止まらない。 
 後戻り出来ない所をとうに通り過ぎて、俺は加減もできず本能の命ずるままに腰を振っていた。 
 「あ、あぁっ…プ、プロデューサぁ…」 
 「えっ?」 
 長らく聞いていなかった…同時にとても懐かしい呼び方が唐突に律子の唇から紡ぎ出された。 
 「ずっと…ずっと好きだった……今…」 
 「え…ずっと、って…」 
 「あふっ…ねぇ、聞いてっ、プロデューサー!私、い、い、今しか言えないかもしれないからっ!」 
 荒い息の合間を縫って、律子が押し切るように言った。 
 「あ…あ…あ…」 
 もう射精感も耐えられる限界を超えてしまい、今にも腰が弾けてしまいそうだが、もう一踏ん張りしろ、俺。 
 「あっ、愛してる!私っ、プロデューサーを愛してるのっ!」 
 「うっ…あ…」 
 ギュウゥ、と中で一層強く締め付けられ、抑え付けていたものが決壊して噴出すのと、
律子の熱い言葉が心に響いたのは、ほぼ同時だった。 
 「うっ、くうぅっ…」 
 コンドームを着けているからつい引き抜こうとしなかったが、
どちらにせよこうも強く締め付けられていれば簡単には抜けないだろう。 
 膣内がグネグネうねって、更に出せと言わんばかりに搾り取ろうとしているようだった。 
 「あ…出てるの?」 
 俺の変化を感じ取ったのか、律子が下腹部を眺めながら何かに意識を集中させているようだった。 



 長い射精が終わっても、俺はしばらく律子の中に分身を収めたまま、抱き合っていた。 
 お互い何も言わず、互いの肌の温もりを確かめ合っていると、窓の外が静かになっているのに気づいた。 
 「雨、止んだのかな…」 
 言いながら律子の中から引き抜くと、所々赤く染まったコンドームと、血の跡がシーツに点々としているのが目に入った。 
 もしかして酷いことをしてしまったのではないか。そんな気分でいると、律子が俺の頭をクシャクシャと撫でた。 
 「そんな悲しい顔しなくたって、私なら平気だから」 
 こんな事をされると、何だかムズ痒いような気分になってしまう。 
 「あ、そういえば時間…」 
 時計をふと見やると、もう日付も変わってしまっていた。 
 「しまった、すまん律子もうこんな時間だけど、送って――――」 
 「さっき両親に『今日は泊まってくる』ってメール送っておいたんで問題無いわよ。むしろ…今はちょっと動きたくないかな」 
 いつの間にそんな事までしていたとは流石だな。 
 「っていうか、終わったと思ったら送ってくだなんて、ちょっと酷いんじゃない?」 
 「う、すまん。なんか不誠実だよな、それって…」 
 律子が不機嫌そうに眉をひそめた。ちょっと怒っているはずなのに、いつもの律子だと思ってほんの少しだけホッとしてしまう。 
 「ふぁ…あ…疲れたのかな。眠くなってきちゃった」 
 「あ、先に寝ちゃってていいよ。俺は明日の仕事のスケジュールとか確認するから」 
 「…今だけは、後回しにしない?確か大きな仕事は無かったでしょ?」 
 「ん、確かそうだったな。…実は俺も眠くなってきて…」 
 「だったら…寝…むにゃ」 
 俺が目を閉じようとするよりも早く、律子は寝息を立て始めた。本当に疲れていたのかもしれない。 
 寝顔を観察しようかと思ったが、急激に睡魔が襲ってきて、成す術も無く俺も眠りに落ちた。 
 愛してる、って言いそびれちゃったな。 



 朝、いつも通りに目を覚ますと、俺は裸だったことに驚いてしまった。 
 そういえば、と寝ぼけた頭で昨夜の事を思い出し、ようやく記憶が繋がったと思ったら、
隣に寝ていたはずの律子がいないじゃないか。 
 「律子?」 
 ばしんっ。声ではなく、紙製のハリセンで返事代わりに額を叩かれた。 
 「おっそーーーーい!!」 
 いつもの青いブラウスに緑のスカート。おさげ髪にトレードマークの眼鏡を引っさげて律子が仁王立ちで俺を見下ろしていた。 
 「こんな時間に目を覚ましてたら遅刻しちゃうじゃない!ほら、早く準備準備!」 
 「いてて、分かったよ」 
 ゲシゲシと足で布団の上から踏みつけられ、俺は転げ落ちるようにしてベッドから出た。というか、落ちた。こんな朝は初めてだ。 
 ハリセンで引っぱたかれながら朝の支度を通常の3倍ぐらいのスピードで済ませ、
忘れ物を確認してドアを開けようとした時、律子が俺のスーツの裾を引っ張っていた。 
 「ん、どうした?」 
 「えーっと、ね。仕事場では、今まで通りでお願いしますよ?社長どの」 
 「あぁ、そりゃあまぁ、けじめ付いてなかったらマズいしな」 
 「うんうん、よく分かってるじゃない。それで…さ」 
 頭一つ分低い所から、律子が上目遣いで俺を見上げた。心なしか、ほんのりと頬が赤い。 
 「今の内に、ちょっとだけ…恋人らしいこと事…しておかない?」 
 そう言って、律子は眼鏡の奥の瞳を閉じた。 
 多分、これで合ってるだろう。
そう思い、俺は肩を抱いて、唇を合わせるだけの行って来ますと行ってらっしゃいの入り混じった軽いキスをした。 
 「ふふふっ。今日も頑張ろうね、ダーリン」 
 願わくば、この眩しい笑顔が俺だけのものでありますように、というのは、贅沢だろうか。 


 終わり 





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